AI・契約レビューテクノロジー協会(AI and Contract Review Technology Association、略称:ACORTA)は1月10日付で、名称をAIリーガルテック協会(AI LegalTech Association、略称:AILTA)に変更することを発表し、説明会を開いた。また、同日には同協会が中心となり策定した「リーガルテックとAIに関する原則」についても公表した。
協会の名称変更の背景
昨今は企業法務の重要性が増加しているが、その一方で法務人材は不足しており、リーガルテック(Legal+Technologyの造語で、法務業務を支援するテクノロジーを指す)の需要が高まっている。
他方で、生成AIやその基盤技術となるLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の能力も向上しており、汎用的なモデルでも一部の法務業務を支援可能な水準となりつつある。
こうした状況に対し、AILTAの代表理事を務める松尾剛行氏は「新規のプロダクトが多数登場し自由競争が促されるという良い一面もあるが、これと同時に、理論上は粗悪なプロダクトが登場する可能性も高まっている。われわれとしては、どのプロダクトがユーザーにとって安心して使えるリーガルテックサービスなのかを示し、リーガルテックそのものの信頼性向上に寄与する」と、協会の意義について説明した。
リーガルテックが台頭してきた2018年ごろは、「マターマネジメント」「契約レビュー」「電子契約」など、各社が単一の業務に特化したリーガルテックサービスを提供していた。しかし最近では、一社で複数の業務に対応可能なプラットフォームサービスを提供する例も増えつつある。場合によっては、複数社が提携して幅広い業務に対応可能なサービスを提供する例もある。
ACORTAはその名の通り、契約レビューに特化した協会としてこれまで活動を続けてきた。しかしプラットフォームサービス化の流れが進む中で、契約レビューにとどまらず周辺の一連の契約サイクル全体を対象とした活動を展開するべく、今回の名称変更に至ったとのことだ。
松尾氏は「AI契約レビューサービスに限らず、リーガルテック全体をカバーする団体としてアクティブに活動を行い、ユーザーがリーガルテックサービスを安心して使えるよう信頼の醸成に努める」と説明した。
名称変更を契機として、契約レビューサービス以外の法務業務支援プロダクトを手掛ける企業も協会へと加入できるようになった。取材時点では、CLM(Contract Lifecycle Management:契約ライフサイクル管理)プラットフォームを手掛けるContractSと、法令調査ツールなどを展開する情報サービス企業であるThomson Reutersの加入が決定している。
なお、同協会は今後の活動内容について「自主策定した原則の公表と周知」「シンポジウムの開催」「リーガルテックと関連法令の整合性に関する研究・検討」「各ステークホルダーとの対話」などを挙げている。
「リーガルテックとAIに関する原則」を策定し公表
AILTAは名称変更と同時に、「リーガルテックとAIに関する原則」を作成し公表した。リーガルテックの活用が広がる日本において、健全なリーガルテックが発展することを目的にしているという。
2023年8月、法務省は「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」、いわゆる法務省ガイドラインを公表。このガイドラインは政府のグレーゾーン解消制度により、法務省が「AIによる契約書等審査サービスの提供」について「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」との見解を示した件を受けて、弁護士法72条とリーガルテックとの関係の予測可能性を高めることを目的に示された。
これに対しAILTAが今回公表した原則は、弁護士法72条とリーガルテックの関係性のみならず、健全で質の高いリーガルテックの提供を促進するためのサービス提供者の行動指針を示したものだ。
原則は前文と4つの原則により構成される。前文には原則が協会会員の指針であることを明記した。原則1は法令順守およびソフトローに対応する「コンプライアンスの原則」、原則2はプロダクト開発過程に法律分野の専門家が関与する「"Lawyer-in-the-loop"の原則」、原則3は情報の適切な取り扱いに関する「データ保護の原則」、原則4はサービスの適切な使用をユーザーに示す「サービス理解促進の原則」をそれぞれ示している。