「AI・契約レビューテクノロジー協会」の具体的な取り組みは
桃尾・松尾・難波法律事務所の松尾剛行氏を代表理事として、2022年9月5日に「AI・契約レビューテクノロジー協会」(AI and Contract Review Technology Association、略称:ACORTA)が設立された。同協会は10月3日に、協会設立の趣旨と主な取り組みに関する記者説明会を開いた。
近年は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用した契約書レビューサービスや、CLM(Contract Lifecycle Management:契約ライフサイクルマネジメント)システムなど、法務・契約の分野でもテクノロジーの活用が進んでおり、「契約業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)」への関心が高まっている。
こうした中で、ACORTAは契約レビュー業務におけるAIやテクノロジーを発展・普及させ、さらに法曹界および企業法務業界での活用を向上させることで、国内企業の法務のを支援し、国際競争力の強化、司法アクセスの向上による豊かな社会の実現を目指している。
協会の特徴は、契約審査や法務DD(Due Diligence)など、AIを用いた契約レビュー業務に関わるテクノロジーに特化している点だ。
今後の具体的な取り組みについては、「シンポジウムの開催」「リーガルテックと法に関する研究」「弁護士法72条とAI契約レビューテクノロジーの整合性に関する検討」「各ステークホルダーとの対話」などを予定している。
法務業界においても他業務と同様に、グローバル化やコンプライアンスの強化が進んでおり、企業を取り巻く環境はこれまでにない速度で変化している。さらにDXの要請なども強まり、高度で効率的な法務業務を通じた企業の競争力の強化が求められている。
このような環境の中でAI契約レビューを用いて業務を効率化することは、契約審査業務の見落としを防止し、法務担当者や弁護士がより付加価値の高い業務に集中できる環境の構築に寄与する。このように、AIや契約レビューを支援するサービスの推進と普及は、サービスの主な利用者である法務担当者や弁護士にとっても便益が期待できる。
前法務副大臣を務めた衆議院議員の津島淳氏は説明会で、次のように、AI契約レビューサービスに対する期待を述べた。
「岸田内閣で法務副大臣を務めた経験から、法務分野にテクノロジーが活用される余地は非常に大きいと感じている。昨今の企業法務におけるテクノロジーの導入は目を見張るものがあり、この動きが今後より加速していくものと期待する。海外には契約社会と言っても過言ではない国が多く、契約書の文言一つが自社を有利または不利にする局面を左右する。日本においても、いかに自社に有利に契約を締結できるかが重要だ。契約業務を効率化して、契約書に潜むリスクをあぶり出し、法務担当者がより付加価値の高い業務に注力できるようになるAI契約レビューサービスには期待している」
AI契約レビューサービスと弁護士法72条の関係性は?
ACORTAの設立は、グレーゾーン解消制度において2022年6月6日に公表された「新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表」の中で、「AI契約審査サービスが弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」との見解が示された件に端を発するという。
なお、本件についてはACORTA社員(リセ、GVA TECH、MNTSQ、LegalForce)とは異なる企業によるものであり、同協会とは無関係の照会だという。
グレーゾーン解消制度とは、産業競争力強化法に基づいて、事業者が現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても安心して新事業活動を行えるよう、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度だ。
しかし、本件を受けて松尾剛行氏らは「AI契約レビューサービスを提供する事業者としては、社会から正しい理解を受けた上で普及を進めることが重要であると痛感した」として、協会の設立に至ったとしている。
現在主流であるAI契約レビューは、審査をしたい契約書のドラフトと、留意が必要な事項を予め記載したチェックリストとを突合することによって行われる。これは自然言語処理技術などを用いて機械的に行われるため、弁護士が業務として行うような契約レビューには当たらないというのがACORTAの見解だ。
また、AI契約レビューはあくまで契約リスクとなる文言や条文をチェックリストとの突合結果から示すだけであり、どのような契約文言とするのかの判断主体は、サービスのユーザーである法務担当者や弁護士にある。
さらに、ACORTA社員らが提供する契約レビューサービスは紛争性のある契約を対象とせず、法務省により「その他一般の法律事件ではない」との見解が示されている類型を対象としていることからも、弁護士法72法に反する危険性はないとのことだ。
松尾氏は「もしも弁護士そっくりのレビューをするようなAIが作られたら、弁護士法に反する可能性はある。その前提の下で、ACORTA各社は弁護士とは全く異なるサービスを提供している。弁護士とは異なるサービスを提供するものの、結果的に法務部門や弁護士の役に立つのがAI契約レビューサービスだと認識している」と説明した。