資生堂は1月8日、生きたヒトの皮膚をリアルタイムで観察可能な「FLIM(蛍光寿命イメージング顕微鏡法)」を用いて、シミ部位の細胞代謝を評価する新手法を開発し、これまで観察が難しかった、シミがどのように悪化していくかという“シミの一生”を時間軸で捉えることに成功したと発表した。

また、この手法を活用することで、シミ部位で起こる細胞老化現象がシミの悪化根源であることを解明し、シミの悪化に対応する独自のトリプル薬剤を開発したことも併せて発表された。

  • 研究概要イメージ

    今回の研究概要イメージ(出所:資生堂)

なおこの研究成果は、化粧品技術に関する研究発表回「The International Federation of Societies of Cosmetic Chemists(IFSCC)」の口頭発表基礎部門で最優秀賞を受賞するとともに、第32回日本色素細胞学会学術大会にて発表されている。

化粧品メーカーとして100年を超える肌研究および先進的シミ研究の知見を有する資生堂は、これまでメラニンやシミが発生する肌内部環境への多角的なアプローチで、さまざまなシミ形成要因を解明してきた。同社は、シミを解き明かすために皮膚内部構造の観察が重要だと考え、シミでのメラニンの蓄積具合や異常な毛細血管の形成、メラニンの過剰生成を促す黒化スパイラルや慢性微弱延焼といったシミ特有の要因を突き止めてきたとする。

だが一方で、こうしたシミ特有の要因に結び付く肌内部の変化を、実際の皮膚と同様の環境において細胞レベルで捉える必要があることが判明したとのこと。しかしこれまでは、生きたシミの内部を細胞レベルかつリアルタイムで解析することは困難だったという。

そして今回資生堂は、シミの根本解決のために“シミの一生”に着目。FLIMを用いて生きた皮膚を観察する新手法を確立し、シミにおけるミトコンドリア代謝を観察するとともに、その代謝状態の検証に挑んだ。

そして研究の結果、FLIMを用いた解析によって、生きたヒトの皮膚のシミ部位では非シミ部位に比べ表皮細胞内のミトコンドリア代謝が低下していることが判明したという。

  • シミ部位ではミトコンドリア代謝が低下する

    シミ部位では表皮細胞内のミトコンドリア代謝が低下する(出所:資生堂)

また過剰なメラニン蓄積がミトコンドリア代謝の低下を起こすことを確認し、さらに細胞老化も引き起こすことを解明したとする。これらの成果から研究チームは、シミ部位では、メラニンの蓄積によってミトコンドリア代謝が低下し、細胞老化が生じることでシミが悪化すると考えられ、“シミがシミを呼ぶ悪化根源”があるとした。

  • 過剰なメラニン蓄積によるミトコンドリア代謝の低下

    過剰なメラニン蓄積によるミトコンドリア代謝の低下(出所:資生堂)

  • 細胞老化の誘発

    過剰なメラニン蓄積による細胞老化の誘発(出所:資生堂)

さらに資生堂は独自のトリプル薬剤を開発。ヒトの皮膚で6週間の連用塗布を行った結果、独自の薬剤を配合した基剤において、シミにおけるミトコンドリア代謝が高まることを見出したとする。これによりミトコンドリアの活性低下を抑えるとともに、老化した細胞から分泌され細胞老化を悪化させる「SASP因子」のひとつである「GROα」を抑制することがわかったとする。

  • シミのミトコンドリア代謝とGROαの変化

    トリプル薬剤配合基剤の連用塗布によるシミのミトコンドリア代謝の変化(左)とGROα抑制効果(右)(出所:資生堂)

資生堂は、2030年に向けたビジョンの中で、生涯を通じて一人ひとりの自分らしい健康美の実現を目指しており、多様な肌悩みに対応し個々の美の追求をサポートするため、今後もシミ・くすみなどの肌悩みに対する深い理解とソリューション開発に向け、研究を深化させていくとしている。