富士通は12月10日、サステナビリティ経営に関する説明会を開き、執行役員でCSSO(Chief Sustainability & Supply Chain Officer)を務める山西高志氏が同社のサステナビリティ戦略を語った。サプライヤーの協力なくしてサステナビリティの実現はできないとして、同社はサプライチェーンの変革をサステナビリティ経営の重要な施策と位置づけている。

事業に近い人材がサステナビリティをリードすることで、富士通はこれまで理念として掲げてきたサステナビリティ経営を実行のフェーズへと進める。山西氏は購買本部長を務めるなど、サプライチェーンに関する経験を積んできた。

  • 富士通 執行役員 EVP CSSO 山西高志氏

    富士通 執行役員 EVP CSSO 山西高志氏

富士通のパーパスを実現するサステナビリティ戦略

富士通は2020年、パーパス(存在意義)を「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」と定め、現在はこのパーパスを起点とした経営を進めている。

さらに、2023年にはパーパスの下でマテリアリティ(重要課題)を策定した。ここでは、必要不可欠な貢献分野について、「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」とした。また、持続的な発展を可能とする土台について、「テクノロジー」「経営基盤」「人材」と定めた。

  • 富士通のマテリアリティ

    富士通のマテリアリティ

これらのマテリアリティに基づいて、同社は2030年のビジョンとして「デジタルテクノロジーによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニー」を掲げた。ネットポジティブとは、富士通が社会に与えるネガティブなインパクトよりもポジティブなインパクトの方が大きいことを指す。

富士通が社会にもたらすインパクトとして、まずはビジネスによる価値提供が挙げられる。同社のテクノロジーやサービスを顧客に提供することで、社会に与える影響だ。他方、非ビジネス領域でもネットポジティブを実現するという。非ビジネスの中でも、サプライチェーンを通じて社会にもたらすインパクトの割合が大きいそうだ。これらのインパクトを定量的に測定するために、まずは可視化が重要となる。

  • ネットポジティブに向けた活動

    ネットポジティブに向けた活動

ESG Management Platform

富士通は財務および非財務の両面からデータを可視化するサービスとして、ESG Management Platformを手掛けており、Fujitsu Uvanceのオファリングサービスの一つとして提供している。同サービスは企業内に散在する財務・非財務情報を可視化することで、サステナビリティ経営を支援する。加えて、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)排出量の可視化、法規制対応や情報開示をサポートする機能を備える。

  • ESG Management Platform

    ESG Management Platform

ESG Management Platformの機能の一つに、財務情報と非財務情報の関連性とその度合いを可視化する機能がある。データを結ぶ線の色とその太さによって、非財務情報が財務情報に与える影響を可視化している。下図の例では、緑色が正の相関関係、赤色が負の相関関係を示す。線の太さは関連の精度を示す。各データ間の関係をAIが解析し、改善のレコメンドを提供する機能も持つとのことだ。

  • ESG Management Platformによる可視化の例

    ESG Management Platformによる可視化の例

富士通は同サービスを活用して社内のデータを統合し、自社での実践に取り組んでいる。現在は、同社が定める6つのマテリアリティと、各マテリアリティを細分化した計18項目について、「事業活動」「サプライチェーン」「社内活動」「コミュニティ / 投資」の4つの観点から社会へのインパクトを可視化し始めた段階だという。財務・非財務の両方で4領域がプラスであることは、すなわち同社がネットポジティブであることを意味する。

気候変動への取り組みの具体例

山西氏は、マテリアリティを細分化した18項目の一つである「気候変動」について、社内実践の事例を紹介した。

同社は気候変動への対応として、2040年までにScope1.2.3をすべて含むバリューチェーン全体でのネットゼロを目標としている。2040年には2020年比でGHG排出量を90%以上削減するとともに、大気中からの除去や貯留による中和量と合わせて、ネットゼロを実現する。

Scope1および2による社内のGHG排出量については、カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップを策定。当初は2030年のGHG排出量を2013年比で33%削減するとの目標を掲げていたが、これを71.4%削減へと修正。しかし昨年にはこれを100%削減へとさらに上方修正した。2050年の達成目標としていた100%削減を、20年前倒ししたこととなる。

  • スコープ1.2における目標値

    Scope1.2における目標値

Scope3を含むサプライチェーン全体でのネットゼロ実現に向けては、推計GHG排出量が上位のサプライヤー各社に対し国際基準に沿ったGHG削減目標の設定を要請。2025年までに、推計排出量を基準として上位80%のサプライヤーが目標設定に至ることを目標とする。

目標設定の要請と並行して、サプライヤーと共同で推計値ではない具体的なGHG排出量の測定を開始した。これまでは業界平均値に基づく推計GHG排出量を基準としていたため、サプライヤー各社の具体的な数値は考慮されていなかったそうだ。

富士通はWBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)が主催するPACT(Partnership for Carbon Transparency:炭素の透明性のためのパートナーシップ)に参画し、推計値ではない実データに基づくGHG排出量の算出方法に関する議論を進めてきた。

PACTの方針に基づいて開発されたESG Management Platformは、サプライチェーンの中で取引先や取引量といった機密情報を含まず、PCF(Product Carbon Footprint:製品カーボンフットプリント)データのみを蓄積する。

  • PCFデータのみを抽出し可視化する

    PCFデータのみを抽出し可視化する

同社は10月から、ESG Management Platformを用いてサプライヤー12社と実データを用いる連携を開始している。今後はこれらのデータを社内のデータと組み合わせ、ビジネスインパクトの試算やレコメンドが可能なAIの開発を進めるとともに、取り組みに賛同し参画するサプライヤーの拡大も図るとしている。