日本では、合理的な根拠が存在しないにも関わらず以前から根強い考えの1つに、子どもは3歳までは家庭において母親の手で育てないとその後の成長に悪影響を及ぼすという「3歳児神話」がある。

東北大学とエコチル調査 宮城ユニットセンターの両者は12月9日、、環境省の「エコチル調査」の参加者のうち約4万人のデータから、保育施設利用と子どもの発達について解析を実施。その結果、1歳未満から保育施設を利用していた子どもは、3歳まで保育施設を利用しなかった子どもに比べ、コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決能力、個人社会スキルの5つの領域で3歳時点での発達が良いことがわかったと共同で発表した。

同成果は、東北大大学院 医学系研究科 発達環境医学分野の大学院生である金森啓太医師、同・大田千晴教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。なお今回の研究成果に関しては、研究チームの意見であり、環境省および国立環境研究所の見解ではないとしている。

エコチル調査は、全国約10万組の親子を対象に、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を解明するため、環境省が2010年から実施している大規模かつ長期にわたる出生コホート調査で、国立環境研究所が中心機関を担い、全国に公募で選定された15の大学などに地域別のユニットセンターが設置されている。

幼稚園や保育園に早期から通うことが、子どもの認知機能・言語・運動・心理社会性などの発達に良い影響を与えることはわかっているが、その先行研究の大半が、幼児教育・保育の長い歴史を持つ欧米諸国のものであり、日本での大規模な調査はこれまで行われていなかった。さらに日本においては“3歳児神話”の考え方が根強く、1998年に厚生白書でこの考えに合理的な根拠がないとされたが、集団保育の早期利用が子どもの発達にどのような影響を与えるのかについては現在でも議論が続いている。乳幼児を取り巻く環境は、国や文化によって大きく異なるため、このテーマについて議論を深めるためには、日本独自の大規模な調査を行うことが重要であると研究チームは考え、今回の研究を実施したという。

今回の研究では、エコチル調査に参加する約10万組の親子のうち、保育施設の利用状況に関する質問項目への回答に欠損のない約4万人を対象に設定。また生後6か月から1歳の間で保育施設の利用を開始し、その後3歳まで継続して利用していた子どもが保育施設利用群(ばく露群)1万3674名、生後6か月から3歳まで保育施設を利用していない子どもが保育施設非利用群(対照群)2万6220名とされた。なお、2歳から利用を開始した場合など、生後6か月から3歳までの間で保育施設の利用状況に一貫性がない場合は除外された。

そして子どもの発達の評価尺度には、生後1か月から5歳半までの小児の発達の遅れを見つけるために作られたスコアツール「ASQ-3」が用いられた。内容は、コミュニケーション・粗大運動・微細運動・問題解決能力・個人社会スキルの5領域、全30項目の質問で構成されている。たとえば「上手に走り、何かにぶつかったり転んだりせずに止まるか」などの質問に保護者が回答し、回答に応じて点数が付けられ、それぞれの領域での合計点が算出される。なおASQ-3にはカットオフ値が設定されており、今回の研究では主な評価項目を、「3歳時点でASQ-3がカットオフ値を下回る(=発達の遅れが示唆される)」子どもの割合とし、両群の比較が行われた。

そして分析の結果、生後6か月の時点で両群の発達に差はなかったとのこと。そして3歳時点では5領域すべてにおいて、保育施設利用群でASQ-3がカットオフ値を下回る割合が有意に少ないことが確認された。またASQ-3スコアの合計点の推移が比較されたところ、特に両群の差はコミュニケーションと個人社会スキルにおいて目立つ結果だったとする。

  • 保育施設利用の有無と3歳時点の発達との関連

    保育施設利用の有無と3歳時点の発達との関連。ASQ-3スコアの合計点が高いほど発達が優れることが示されている。ASQ-3スコアの合計点の推移を比較が行われたところ、すべての領域で保育施設利用群の方が3歳時点でのASQ-3スコアが高くなっており、特に、その差がコミュニケーションと個人社会スキルで目立つ(出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームは今回の結果について、早期の保育施設利用に対するポジティブな効果が示され、ネガティブなイメージの払拭が進むことが期待されるとしており、さらに子どもに多くの他者との交流や多様な経験を提供することの重要性が強調され、子どもの発達を促進するために望ましい社会を形成していくことにつながると考えているとした。

なお今回の研究では、3歳時点の発達の比較が行われたに過ぎず、3歳以降の発達や、発達以外の母子関係やその子の心理的安定などの評価をしたものではないため、一概に保育施設での子育てが家庭での子育てよりもすべての点で優れるということを結論付けたものではないとのこと。保育施設と家庭での子育ての双方にそれぞれメリットがあり、今回の結果が保育施設を利用しない子育てを否定するものではないとしている。