NTTは、風雨などの影響で光ファイバケーブル内の信号伝搬環境が変動するフィールド環境下において、最大455テラビット毎秒の信号を安定して伝送する実験に、世界で初めて成功したと12月9日に発表した。

  • 陸上フィールド環境における、12結合マルチコアファイバケーブルを用いた大容量長距離光伝送実験の概要

実証実験では、量産化に適した既存光ファイバと同等の細さの12コアファイバを商用の高密度多心ケーブルに実装・接続し、かつ、大規模MIMO(多入力多出力)信号処理技術を適用。風雨などの外乱がある状態の陸上フィールド環境において、53.5kmの伝送距離で455テラビット毎秒の大容量伝送が行えたとしている。

さらに、日本の基幹光ネットワークの大動脈である東名阪区間をカバーできる1,017kmの伝送距離において、大容量389テラビット毎秒の中継増幅伝送にも成功。この成果は、従来の50倍以上の伝送容量を持つ将来の陸上光伝送システムを実現する基盤技術として期待されるという。

NTTでは今後、関連技術分野と連携し本技術の研究開発をさらに進めることで、2030年代のIOWN構想・Beyond 5G/6G時代の大容量光伝送基盤の実現に寄与する、大容量陸上ネットワークの実用化をめざすとしている。

大容量モバイルネットワークの普及や、AI技術を支えるデータセンター間の通信増といった需要を支えるために、陸上基幹光ネットワークは継続的な大容量化への対応が求められる。

現在のネットワークでは光通信の商用導入以来40年以上、1本のファイバにコアと呼ばれる光が通る導波路を1本持つ構造の光ファイバが用いられている。これに対し、ファイバあたりのコアの数を増やして光信号を並列に送信して空間チャネル数を増やす、マルチコアファイバなどによる空間分割多重光伝送の研究開発が進展。将来の大容量基幹光ネットワークの基盤技術として期待されている。

既存システムとの親和性と量産性の観点から、既存光ファイバと同じ0.125mmという細さを保ったまま、空間チャネル数を10以上に拡張するためには、隣接するコア間の光信号を意図的に混信させる「結合型マルチコアファイバ」が有望視される。

結合型マルチコアファイバは、内部に複数のコアと呼ばれる光伝送路を設け、各コアから漏れ出る光信号同士の干渉を適切に設計することで、長距離伝送に適した伝搬特性を持つように設計された光ファイバのこと。

信号を受信した後の受信機においてデジタル信号処理と組み合わせることで結合を解けるため、大容量光伝送が実現できるという。また、同様の高い空間チャネル数が実現可能なマルチモードファイバと比べて、光信号の伝搬状態の設計の自由度が高く、特に伝搬遅延ばらつき(各コアを通る光信号間の受信機への到着時間のばらつきを示す指標)を低減できるという特徴がある。

これにより、風雨などの外乱による実環境の変動に追従するためのデジタル信号処理の計算量を小さくすることができ、消費電力やコストを削減した光伝送を実現することが期待できるとのこと。

従来の結合型マルチコアファイバの研究では、主に実験室環境に置かれたファイバ素線を用いて、大洋横断級長距離伝送の実現可能性などが検証されてきた。このファイバを用いた陸上伝送システムの実用化へ向けては、時々刻々と光ファイバケーブル内の信号伝搬環境が変動するフィールド環境における安定的な大容量伝送の検証が重要となる。

  • 今回の成果の位置づけと、既存光ファイバと同じ標準的な細さのファイバを用いた、フィールド環境における大容量空間分割多重伝送実験の動向

今回の研究では、NTT横須賀R&Dセンタ敷地内に全長4.86kmの12結合コアファイバケーブルを敷設し、大規模な伝送実験が可能なフィールド検証環境を整備。地下のとう道や、地上の電柱間にケーブルを架けた空中配線区間など、陸上フィールド環境を模擬した場所に敷設し、ケーブル内の11本のファイバを折り返し接続することで、一周53.5kmのフィールド環境周回伝送評価系を構成した。

敷設に当たっては、商用システムと同様の構成の200芯ケーブルの一部に、12個のコア間で信号の結合が発生する12結合コアファイバを、伝搬遅延ばらつきを大幅に低減しながら実装。商用システムの陸上ネットワークは中継地点間に多数の融着点・あるいはコネクタ接続点があり、今回は住友電工によるファイバ融着技術や、安定な低損失接続を追求した千葉工大によるコネクタ技術を採用。フィールド検証環境内のマルチコアファイバ間直接接続に適用した。

受信機におけるデジタル信号処理としては、ダイナミックに変動する光の結合状態や光送受信機内部の理想からのずれを超高精度に補償するMIMO信号処理技術を適用。最大1,000km以上の伝送後の歪んだ受信信号から送信信号を復調している。

実験では、はじめにフィールド検証環境の信号品質を特徴づけるパラメータである、伝搬遅延ばらつきと光損失ばらつきを1時間にわたって評価。安定した値を示すことを確認した。

  • 敷設した12結合コアファイバ伝送路の伝送パラメータの時間依存性評価結果

続いて各波長チャネル信号の伝送後の信号品質評価を実施し、伝送距離53.5kmにおいて、各波長信号がそれぞれ14テラビット毎秒以上の伝送容量を持ち、総伝送容量は455テラビット毎秒に達することを確認。陸上フィールド環境で実施された空間分割多重伝送実験で最大のものであり、現行陸上システムの50倍以上の伝送容量に相当するという。

さらに、伝送距離1,017kmにおいても、それぞれ12テラビット毎秒容量以上の波長信号により総伝送容量389テラビット毎秒の容量を達成。日本の基幹光ネットワークの大動脈である東名阪区間をカバー可能な距離であり、将来的には、10以上コアを持つ結合型マルチコアファイバによる陸上フィールド環境の大容量長距離光増幅中継伝送システムの実現に寄与することが期待されるとしている。

  • 大容量フィールド伝送結果