宇宙航空研究開発機構(JAXA)とAstroXは、気球に搭載した大型構造物の姿勢を高い精度で制御する「気球用プラットフォーム懸垂型姿勢制御装置」を共に研究開発すると12月3日に発表。高空での気球の多様な用途への活用と運用性向上の実現をめざす。
AstroXは姿勢制御装置の地上での評価試験、製品としての繰り返し利用に必要な高信頼化・高耐久化の技術開発、姿勢制御装置のパッケージ化開発を行う。JAXAは、気球本体に吊す大型搭載物の姿勢を高精度で制御できる装置の開発と、開発した装置の実フライト試験環境の技術実証に向けた準備を進める。
今回の取り組みは、宇宙ビジネスをめざす民間事業者らとJAXAが手を組み、新たな発想の宇宙関連事業を創出する「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)の枠組みで進めるもの。両者は事業コンセプト共創として、2025年度に地上でのシステムレベルの評価試験を実施。2027年度に姿勢制御装置のパッケージ化をめざすとしている。
両者がめざす出口として、AstroXは気球用プラットフォームとしての懸垂型姿勢制御装置の開発を進めることで、高空での気球を用いた事業を早期に実現。高高度プラットフォーム(HAPS)や地上用クレーンといった、非宇宙分野製品への適用など事業拡大もねらう。JAXAは今後の気球での天文観測に、今回の共創で得られる姿勢制御装置を活用。気球実験の基盤技術の高度化が期待できるとしている。
AstroXは、気球でロケットを成層圏まで運んで打ち上げるロックーン(Rockoon)方式の実現など、高空での気球を活用した事業に向けて、気球用の懸垂型姿勢制御装置の開発に着手。すでに試作機の構築と試験を進めているが、「飛翔中の気球ダイナミクスや成層圏環境に関する専門的知見」や、「制御装置の実フライトによる実証試験」において課題があるとのこと。
一方、JAXA傘下の宇宙科学研究所(ISAS)では、気球を使った天文観測などの研究が多数行われており、搭載する大型望遠鏡やセンサーの姿勢制御に関連する技術や知見を多数蓄積している。
AstroXとは2023年5月から対話をはじめ、これらの技術と知見が同社の事業に活用できると判断。JAXAとしても、高性能な姿勢制御装置を汎用のシステムとして構築できれば、今後の気象実験の基盤技術として、次世代の天文観測を含むさまざまな実験に利用できるとのことから、AstroXとJAXAで共創を進めることに合意したという。