三井不動産グループで空間デザインやリフォーム・リニューアル領域を担う三井デザインテックは12月3日、プレス向けセミナーを開催。同社の掲げるデザインコンセプトや過去事例を紹介するとともに、三井デザインテックとして試行錯誤を続ける“サーキュラーデザイン”に関する取り組みや新サービス構想について説明した。

空間に存在するすべてをデザインする三井デザインテック

三井デザインテックが掲げるのは、“Design Everything”。表面的な意匠だけでなく、空間に存在するあらゆる要素を根本的に捉え直してデザインすることで、新たな価値を創造することを目指すとする。またミッションは「くらしと社会の未来をつくる」としており、異なる空間価値を掛け合わせて新たな体験価値の創造につなげる“クロスオーバーデザイン”の数々を手掛けている。

2024年4月に同社の代表取締役社長に就任した村元祐介氏は、セミナー内で「事業領域を超えたクロスオーバーデザインを強みに、今後とも豊かなくらしと魅力ある社会づくりに貢献していきたい」と説明する。また見月伸一フェローは、三井デザインテックがこれまで手掛けてきた事例を紹介。その中では、住宅やオフィスなどの設計・リフォームはもちろんのこと、ホテルやスポーツスタジアムなどのエンターテインメント性を重視した領域、さらにはスタジアムとホテルが一体となった「STADIUMCITY HOTEL NAGASAKI」など、クロスオーバーデザインが体現された事例が数多く紹介され、三井デザインテックが掲げるデザインの理念が示された。

  • 三井デザインテックの村元祐介代表取締役社長

    三井デザインテックの村元祐介代表取締役社長

“サーキュラーデザイン”の現在、そして未来へ

またセミナーの後半では、「三井デザインテックの考えるサーキュラーデザインの現在と未来」と題したセッションが展開された。

登壇した三井デザインテック 取締役常務執行役員の飯田和男氏によれば、CO2やGHGの排出量削減や排出量の把握に向けた動きや規制が世界的に進む中で、同社としてもここ2年程は特にサーキュラーエコノミーを意識した取り組みに注力しているとのこと。これまではリニアな体制となっていた特注家具の生産を再考したり、搬送の効率化や保護材への再生素材活用を検討したりと、さまざまな施策を行っているとする。

そしてトークセッションでは、三井デザインテックでクリエイティブデザインセンターのセンター長を務める堀内健人氏と、同社デザインディレクターの田中映子氏、そして共同でサーキュラーデザイン実現に向けた検討を進めるモノファクトリーの三上勇介常務取締役が登壇し、実際に視察した欧州での事例などを取り上げながら、デザインの観点から議論を繰り広げた。

  • 三井デザインテックが考える“サーキュラーデザイン”

    三井デザインテックが考える“サーキュラーデザイン”

実際に欧州を視察した経験のある登壇者たちは、特に欧州に対して遅れを取っているという印象を抱かれがちな日本の環境配慮に向けた取り組みについて、「特に遅れているとは思わない」とコメント。先んじて規制を決定して市民の取り組みが広がっていく欧州と比較して、市民間での取り組みが活発化してから法規制が後を追う形をとる日本では、法整備の遅れが目立つものの、実際の取り組みが足りていないわけではないという。むしろ廃棄物の分別については、「日本の分別意識は世界的に見ても特殊と言えるほど優れている」と三上氏は語っており、循環型社会の実現に向けた下地は日本でも整い始めているとする。

そんな中、“サーキュラーなデザイン”を探索するために三井デザインテックではプロダクト制作のトライアルに着手。デザインの観点から提案される手法として、2つのプロトタイプを制作した。そのうち1つは“サステナブルマテリアル100%でできたベンチ”で、環境配慮素材を用いて接着剤の使用量も減らすという方針を取ったとのこと。しかし堀内氏は、「この家具自体は1度サイクルを経たものとはいえるが、もう1度分解してサイクルを回すための設計にはなっていない。これでは本当の意味でのサーキュラーデザインにはならない」と話しており、本質的な“循環”に向けた探索を再び始めたという。

  • サステナブルマテリアル100%のベンチ

    プロトタイプとして制作されたサステナブルマテリアル100%のベンチ

しかし堀内氏は、この時制作されたもうひとつのプロトタイプについては課題解決への手ごたえを感じていたそう。それが、“古い空間に価値を与え、次の命を吹き込む”というアプローチから生まれたチェアであり、すでに存在していたものに新たなデザインを施すことで、新たな家具として生まれ変わらせたとする。アーティストの協力も得ながら完成にたどり着いたこの椅子は、デザインからのアプローチでロングライフを実現しており、“価値の長寿命化”のヒントとなったとした。

  • ロングライフを実現したチェア

    デザインによりロングライフを実現したチェア

2030年にはサーキュラーデザインを“スタンダード”に

これらのプロトタイプから見えた問題点を再び見つめ、“循環させるデザイン”を改めて捉え直した堀内氏らは、再び循環型家具の開発を始動し、ホテルのインテリアをイメージしてさまざまなデザインを提案した。分解のしやすさや素材の改良などを行ったこれらの循環型家具では、従来比でのCO2排出量削減率なども定量化され、より大きな循環につながる製品となったとする。

  • 新たな視点から制作されたベンチソファ

    新たな視点から制作されたベンチソファは、従来比20%のCO2削減効果があるという

なお三井デザインテックは、こうした新たなデザインの構想を進めながら、未来に向けた新サービスの構想も立ち上げたとのこと。CO2削減効果のみならず、循環のしやすさに配慮した設計・施工・制作サービスを提供していくとした。

同社は現在、サーキュラーデザインを実現するために必要となる8つのポイントを明文化。ものづくりを行ううえで前提となる「ロングライフ」を“0番目”の項目として設定し、CO2削減量の数値化や循環・分解のしやすさ、素材面の改善やトレーサビリティの向上など、多面的なアプローチでサーキュラーデザインの実現に向けて動くという。

そして今後はこうした構想に端を発し、2025年度内にはサーキュラーデザイン家具サービスを開始、翌年度にはインテリアサービスにもつなげていきたいとのこと。その後2030年にはサーキュラーデザインが“スタンダード”として浸透する未来を創造するとしており、空間づくりを通じて社会的な課題の解決に取り組みながら、サステナブルな社会の実現を目指していくとしている。