米国のトランプ次期政権の人事が明らかになってきたが、外交・安全保障分野では相次いで対中強硬派が抜擢されている。

安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ下院議員が選ばれたが、ウォルツ氏は陸軍特殊部隊出身で、下院では中国批判の急先鋒として知られている。また、国務長官にはマルコ・ルビオ上院議員が起用されるが、ルビオ氏も対中強硬派で、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題を強く非難し、中国の軍事的脅威に直面する台湾を軍事的に支援する必要性を訴えている。このような人事から、トランプ次期政権が対中強硬姿勢に出ることは間違いなく、1期目以上に大胆な対中政策が打ち出されていくだろう。では、トランプ次期政権はバイデン政権の4年間で激化した半導体覇権競争にどう対応していくのだろうか?。

バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止する観点から、先端半導体そのものの獲得や製造に必要な材料や技術、専門家の流出を防止する輸出規制を強化し、先端半導体製造装置で高いシェアを有する日本とオランダにも規制に参加するよう呼び掛け、日本は2023年7月、14nmプロセス以下の先端半導体製造に必要な製造装置など23品目を輸出管理の規制対象に加えた。しかし、米国は両国の輸出規制が自国の期待に達していないことに不満を抱いており、両国の半導体関連企業が過去に中国に販売した製造装置の修理や予備部品の販売を続けていることに対して、さらに厳しい輸出規制を求めている。バイデン政権は4月、オランダに対して同国の半導体製造装置大手ASMLが中国企業に販売した装置の保守点検や修理サービスを停止するよう要請した。そして、オランダは9月、ASMLの2種類のArF液浸露光装置に対する輸出許可要件を拡大し、中国向けの輸出規制を強化した。さらに、バイデン政権は韓国やドイツにも対中輸出規制への参加を求めており、例えば、ドイツのカールツァイスはASMLに先端半導体に必要な光学部品を供給しているが、米国はカールツァイスが中国に関連部品を輸出しないよう、ドイツ政府が主導するべきだと主張した。実際、バイデン政権は6月のG7サミット前にもドイツに対し、対中輸出規制への参加を求めたとされる。バイデン政権はこの4年間で、同盟国と協力しながら中国を先端半導体分野から閉め出す姿勢を鮮明にしている。

トランプ氏の究極の目標は、米国が世界で最も強い国であり続けること、そしてそれを脅かしかねない中国を排除することにある。要は、トランプ氏にとっては中国の国力、技術発展を米国の脅威にならない程度に抑えることが目的なのである。そう考えれば、トランプ次期政権が皮肉にも犬猿の仲とも言えるバイデン政権の対中半導体輸出規制を継承することは想像に難くなく、1つも解除することはないだろう。むしろ、中国に負けないという姿勢はバイデン氏より明確に示しており、トランプ次期政権はそれを継承するだけでなく、さらに先端テクノロジー分野で中国への規制を強化することだろう。バイデン政権下の規制は、どちらかというと必要に応じてというイメージがあったが、トランプ次期政権では懲罰的と表現できるような措置が発動されていく可能性があろう。