「ドン・キホーテ」「アピタ」「ピアゴ」を中核としてディスカウントストア事業や総合スーパー事業を展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)。同社が展開するユーザー投稿型コンテンツ「マジボイス」が、サービス開始からわずか9カ月で86万件の評価と26万件の口コミを集めるなど、急速な成長を遂げている。
同社 マーケティング戦略本部 マーケティング戦略部 マジボイス推進課 課責任者の宮本慎太氏は、11月12日~14日に開催されたウェビナー「DCSオンライン × TECH+ セミナー 2024 Nov. リテールDX リアルとECの融合で実現する顧客体験価値向上の最新トレンド」において、この背景にある「顧客最優先主義」の企業理念と独自の仕組みについて語った。
「権限委譲」で実現する顧客最優先主義
PPIHグループが掲げる企業理念の中核にあるのが「顧客最優先主義」だ。「シンプルに顧客を第一に考えることはもちろん、お客さまにとって『最も都合のいいお店』を目指すという考えが根底にある」と宮本氏は説明する。
この理念を実現する仕組みとして特長的なのが、「権限委譲」という考え方だ。一般的な小売業では本部が一括で商品を仕入れ、各店舗に展開するのが通常だが、同社では各店舗に権限を委譲している。
「お客さまのことを一番知っているのは店舗の従業員。各店舗がお客さまのニーズに合わせて柔軟に品揃えを変更できることが、当社の強さの源泉となっています」(宮本氏)
「正直レビュー」と「おしえて掲示板」 マジボイスの特長的な仕組み
この「顧客最優先」の考えをデジタルの領域で実現し、顧客に「権限委譲」しようと立ち上げられたのが「マジボイス」だ。
マジボイスは、PPIHグループの店舗で利用できる電子マネー「majica(マジカ)」の公式アプリに導入された新機能で、顧客が購入した商品を「いいよ!」または「ビミョー」の2択で評価する「正直レビュー」と、店舗や商品の使い方に関するアイデアを自由に投稿できる「おしえて掲示板」という主に2つのコンテンツで構成されている。
いずれも、公序良俗に反する内容以外は原則24時間365日体制で公開。「厳しい意見ほどありがたい。それを基に改善しなければならない」(宮本氏)という姿勢で運営されている。これは、マジボイスの開発・運営において、企業としての信頼度を高めることが重視されているためだ。
「マジボイスを通して、PPIHグループ全体の信頼度を高めていきたい。そのために、企業にとって不都合な事実も含めて全てさらけ出すという方針を貫いています。そうした情報も含めて全て開示することは、お客さまから見ると非常に信頼度の高い情報となります。この透明性を保つことは、マジボイスの運営において決してブレない軸となっています」(宮本氏)
投稿のチェック体制については、AIによるNGワードチェックと人的チェックを組み合わせているという。透明性と即時性を重視しながらも、適切なモデレーションを行うことで、より信頼性の高い情報プラットフォームを目指している。
購買履歴×顧客の声が実現する、的確な商品改善
マジボイスの強みは、約1500万人のmajicaアプリユーザーの購買データと連携していることだ。「以前運営していたWebサイト『ダメ出しの殿堂』では、投稿者が実際の顧客なのか判別できなかった。マジボイスでは購買データと紐付けることで、より詳細な分析が可能になっている」と宮本氏は語る。具体的には、AIツールを活用して顧客の属性や購買パターンと口コミ内容を分析。これにより、商品開発担当者により実用的な改善提案が可能になっているという。
集められた顧客からの声は、月1回開催される「マジボイス実現委員会」で検討される。商品開発担当者やデザイン部門など関係者が一堂に会し、特に「ビミョー」評価の多い商品について改善策を議論。「ときには商品の廃番を決定することもある。お客さまの声を実現するため、熱い議論を重ねている」と同氏は説明した。
実際の改善事例として、ドン・キホーテの食品用ラップ「無添加からだ想いラップ」のケースが挙げられる。「切りにくい」「使いにくい」という評価が多かったことから、箱の強度を上げ、刃の形状を改善した。また、ドン・キホーテの独自ブランド「偏愛めし」シリーズの「あんだく溺れ天津飯」では、「つゆだくが強みだが、温めたときにこぼれやすい」という声から、パッケージを40種類以上検討して改善を実施した。
ポイントに頼らないUGC収集
ポイント付与などのインセンティブに頼らずに投稿を集めている点も、マジボイスの特長だ。
「ポイントをばらまいてお客さまの声を集めると、ポイントがないと声が集まらなくなります。我々が重視しているのは、より納得性のある買い物体験を提供すること。そのために鮮度と透明性の高い情報を即時的に開示しています」(宮本氏)
当然ながら、課題も存在する。食品や日用品雑貨など購買頻度の高いカテゴリーには投稿が集中する傾向がある一方で、アパレルなど一部カテゴリーでは投稿が少なくなってしまう。この課題に対し、majicaアプリの購買情報を活用したプッシュ通知の最適化や、評価を募集したい商品のピックアップ表示など、UIやUXの工夫を重ねているという。
「マジボイスで商品を選ぶ」が当たり前の世界へ
今後の展望について宮本氏は、「PPIHグループの店舗に行った際に、まずマジボイスを見て商品を選ぶという買い物習慣をつくっていきたい」と語る。また、ドン・キホーテの特長でもあるPOPとのコラボレーションなど、デジタルとリアル店舗を組み合わせた新しいプロモーションにも意欲を示した。
「例えばマジボイスで評価の高い商品だけを集めた売場をつくるなど、お客さまの声を活用した新しい売場づくりも検討しています」(宮本氏)
小売業界へのメッセージとして同氏は、「小売業にとって、お客さまの声を活かしたプロモーションやコンテンツの活性化は必要不可欠。より一層お客さまの声を大切にしていただきたい」と締めくくった。
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ポイントに頼らず、透明性の高い情報開示と迅速な改善サイクルによって顧客との信頼関係を築き上げてきたマジボイス。この取り組みは、デジタルとリアルの融合による新しい顧客体験の創出に悩む小売業界に、1つの明確な答えを示していると言えるだろう。