ヤンマーホールディングスは11月7日、農機や建機、ボートなど自社製品のプラットフォーム化に向け、次世代ヤンマーデザイン「YANMAR PRODUCT VISION(YPV)」を発表。東京・八重洲の複合施設「YANMAR TOKYO」でコンセプトモデルを披露した。11月15日まで一般来場者も体験できる(詳細は後述)。

  • 「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」で初公開した、コンセプト農機「YPV-L」(Land)の原寸大モデル。乗り込んでコクピットの様子をVR体験することもできた

  • 農機や建機、ボートなどのプラットフォーム化に向けた、次世代デザイン「YANMAR PRODUCT VISION」

  • みらいのけしき展の正面入口
    (画像提供:ヤンマーホールディングス)

YPVは、様式にとらわれず本来の機能的な価値・意味を重視する「本質デザイン」の思想に基づき、2035年を想定して各事業の“ありたき姿”を視覚化したビジョン。また、人に寄り添いながらも過酷な現場で耐えうる機械を製造してきたヤンマーのデザインを、「柔和剛健」という言葉で表現している。

  • YPVの概要と、実現に向けたおおよそのロードマップ

  • ヤンマーが考える「本質デザイン」。同社ならではのデザインを「柔和剛健」という言葉で表す

これらは2015年にヤンマーが立ち上げた自社デザインチームが手がけたもので、YPVのデザインを通して定義した新たな意匠やキャビンの構造、HMI(Human Machine Interface)などの要素をプラットフォーム化。部材・設計の共通化に加え、未来の作業を見据えた新たなインターフェイスによる直感的な操作性や居住性も向上させるほか、開発工数の効率化や、コスト削減にも寄与していくという。

YPVのコンセプトモデルとして、まずは「大地(Land)」領域で展開するコンセプト農機「YPV-L」(Land)、「都市(City)」領域向けの「YPV-C」(City)、「海(Sea)」領域向けの「YPV-S」(Sea)の3種類を発表。なかでもYPV-LとYPV-Cについては、プラットフォーム化の一例として従来のキャビン構造を見直し、農業機械と建設機械との部品の共通化を実現するとしている。

  • 左からコンセプト農機「YPV-L」(Land)と、YPV-Lをキャビンレス(無人)で利用する完全自動化形態、コンセプト建機「YPV-C」(City)
    (画像提供:ヤンマーホールディングス)

  • 農機のYPV-L(左)と建機のYPV-C(右)は、どちらも部品の共通化を図る考え。人が乗るキャビンを外して代わりにバッテリーを積み、キャビンレス仕様とすることもできる

YPV-Lは、運転席に大型モニターを設置し、他の自動運転農機などをコントロールする司令塔としての役割を持たせたコンセプト農機。完全自動化に向けたキャビンレス仕様を想定して、作業場所や作業者のニーズに合わせたカスタマイズも可能にする。前方に空洞を設け、空冷機構を備えている点のも大きな特徴。

  • YPV-Lはマルチパワートレインで、車格はYT3相当

  • YPB-Hと名付けたコンセプトイメージ。共有キャビンには直感的に操作できるディスプレイを備え、各種作業補助も

  • YPV-Lは前方に大きな空洞を配するなど、冷却系のレイアウトを刷新。タイヤにはエアレスタイヤを採用している

  • キャビンポジションは変更可能

  • キャビンスペースを外して自動化や電動化、ハイブリッド機器にすることも

YPV-Cは、今後増えることが見込まれるリノベーションや屋内作業を見据え、電動化した建機をカタチにしたもの。災害時の活用も想定しており、いち早く現場への移動が必要となることを見越して、クローラではなく走行に最適なホイール(タイヤ)を採用した。電動化で課題となるバッテリーの持続性と給電については、自走式バッテリー車で必要なタイミングに自動給電することを考えているという。

  • YPV-Cもマルチパワートレイン。機械質量は約3.5トンを想定する。後方超小旋回、多輪ホイール装備

  • 自走式バッテリー車で電動建機に自動給電するイメージ。作業機へのプラグイン給電を可能にする

YPV-Sは、新たなマリンライフを提案するフォイリングセイルボートで、動力から船上での過ごし方までをデザインしたもの。ヤンマーがこれまで蓄積してきた舶用技術やノウハウをベースとし、揚力で船体を浮かび上がらせるフォイリングや、風力によるセイリングを組み合わせて、自然力を最大限に活用するデザインになっている。

  • フォイリングセイルボートのYPV-S

  • 航行イメージ

なお、YPVの基本的な考え方は、ヤンマーホールディングスのグループ会社であるヤンマーアグリが2024年1月に発表した、農業のCO2ゼロエミッション化をめざした小型電動農機のコンセプトモデル「e-X1」に既に採り入れられているそうで、こちらは2025年にテスト販売を行う予定とのこと。

  • 小型電動農機のコンセプトモデル「e-X1」

同社取締役CBO(チーフブランディングオフィサー)の長屋明浩氏は、YPVのコンセプトモデルをそのままのカタチで商品化するわけではないとしつつ、「大きな考え方、指標をまず作って全体を評価していきたい。ヤンマーはエンジンや原動機で成長し多事業化してきた企業だが、現在はさまざまな事業が散在している状態だ。そこで新しい考え方として『コアになっていくもの』、共通ドメインの部分を大きくできないかと考えている」と説明。

そのうえで、「散在する商材やサービスをできるだけまとめて使いやすく、効率化させていくことは資源の節約にもなり、環境保護という面でも効果的だと考える。持続社会を提唱する企業のやり方として正しいと考えており、『こういう姿勢で事業を展開していく』と宣言した上で頑張っていく、有言実行の経営スタイルに変えていきたい」(同氏)とした。

  • ヤンマーホールディングス 取締役CBO(チーフブランディングオフィサー)の長屋明浩氏

ヤンマーでは、インハウスデザインチームが手がけたさまざまなデザインワークと共に、ヤンマーデザインがディレクションし、世界中のパートナーと共に創造した多数の作品を紹介するイベント「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」を、前出のYANMAR TOKYO 地下1階にある「HANASAKA SQUARE」で11月8日から15日まで開催する。

会場は八重洲のバスターミナルまでの地下通路に面しており、一般来場者も楽しめる。開催時間は各日11時~19時(15日は17時まで)。事前予約不要で入場無料。

  • 東京・八重洲で「YANMAR DESIGN みらいのけしき展」を開催

  • 9代目ヤン坊マー坊の立体像。背後にはこのデザインに至るまでの多数のスケッチも展示している

同展では、製品デザインやグラフィックデザイン、建築に加え、さまざまなグッズのパッケージデザインまで、普段目にすることのないインハウスデザインの多彩な世界が楽しめるようになっている。同展では「この10年の歩みを振り返りつつ、ヤンマーが描く『みらいのけしき』をぜひ体感してほしい」とアピールしている。

  • ヤンマーロゴからグッズのパッケージデザインにいたるまで、さまざまなインハウスデザインの成果が一堂に会する

  • ヤン坊マー坊仕様の「飛び出し坊や」もあった

  • 会場には物販コーナーも設ける
    (画像提供:ヤンマーホールディングス)