IBMでは、企業における「ハイブリッド・バイ・デフォルト」から「ハイブリッド・バイ・デザイン」へのシフトに向けた支援を強力に推し進めている。今回、米IBM Cloud Product and Industry Platform Infrastructure GMのロヒット・バドラニー氏と、日本IBM 理事 クラウド・プラットフォーム事業担当の佐藤隆子氏に話を聞いた。

企業が目指すべきは「ハイブリッド・バイ・デザイン」

冒頭、バドラニー氏は「現在、大半の企業において変革のフェーズを迎えており、DX(デジタルトランスフォーメーション)の観点からハイブリッドクラウドを加速化したいと考えています。また、これに伴い生成AIによるデジタルイノベーション、サイバーセキュリティ、サステナビリティへの対応をはじめ、変革を起こすようなテクノロジーを積極的に採用していく動きがあります」と述べた。

  • 米IBM Cloud Product and Industry Platform Infrastructure GMのロヒット・バドラニー氏

    米IBM Cloud Product and Industry Platform Infrastructure GMのロヒット・バドラニー氏

そのため、同社では企業におけるハイブリッドクラウドの加速とAIの活用をミッションとしている。しかし昨今、同社の9割の顧客企業がハイブリッド・バイ・デフォルトに陥っているという。

これは、オンプレミスやパブリッククラウドなどが混在し、サイロ化しているためイノベーションの適用が緩やかなものになり、リソースの活用が限定的でビジネス全体での最大活用が難しく、生成AIの活用に関して制約があるという状態だ。

そのため、同社ではハイブリッド・バイ・デザインへのシフトを支援している。ハイブリッド・バイ・デザインは迅速・継続的なイノベーションを可能としており、自動化・統合された運用モデル、投資の活用、生成AIシステムのスケールといった特徴を持つ。

同氏は「たとえば、ワークロードの配置に関して入念に考え抜いて計画を立案し、定義されたアーキテクチャを提示するなどのサポートを行っています。また、生成AIであれば見合ったユースケースは何なのか、効率性も含めて提案しています。ワークロードの配置を考え抜いている企業であればあるほど、革新的なエンタープライズになるためのメリットを加速度的に享受することができています」と話す。

  • IBMでは企業における「ハイブリッド・バイ・デフォルト」から「ハイブリッド・バイ・デザイン」へのシフトを支援している

    IBMでは企業における「ハイブリッド・バイ・デフォルト」から「ハイブリッド・バイ・デザイン」へのシフトを支援している

では、実際に日本企業ではどのような状況なのだろうか。その点について佐藤氏は「日本企業は、そこまでハイブリッド・バイ・デフォルトの状態ではなく、IT部門のガバナンスはしっかり効いています。DXに本格的に取り組み、その上で生成AIのプロジェクトを進め、個別の業務最適化は図れています。しかし、これまで以上に業務やシステム、会社の枠を超えていくことに取り組まなければ、本当の効果は得られないと考えています。企業として10年後の姿を描くため、データを社内、クラウドに置いて、ハイブリッドな環境でエンドツーエンドによる効果を出そうとチャレンジするお客さまに対して、当社では成功事例などを紹介しつつ支援しています」と、現状を語っている。

  • 日本IBM 理事 クラウド・プラットフォーム事業担当の佐藤隆子氏

    日本IBM 理事 クラウド・プラットフォーム事業担当の佐藤隆子氏

エンドツーエンドのハイブリッドプラットフォーム化を支援

IBMでは、企業におけるエンドツーエンドのハイブリッドプラットフォーム化に向けて、インフラストラクチャ、ソフトウェア、コンサルティングの3本柱とし、エコシステムパートナーとともにこれらを支援している。

バドラニー氏は「当社が提供しているクラウドの目的としてはエンタープライズクラウドを提供し、お客さまがハイブリッド化していくジャーニーを支援していくことです。そして、これには他社のクラウドプラットフォームも含まれており、ハイブリッド/マルチクラウド化に対応するためです。これは重要なことです」と述べている。

同氏が言及した通り、IBMではAWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、Google Cloud、Oracle Cloud Infrastructureなど、そのほかのクラウドも支援。同氏は「IBM Cloudのみならず、そのほかのクラウドもカバーしていることがなぜ重要なのか。単一のプロバイダーのみになるとリスクがあり、特に規制当局は注視しています。こうした背景から、システム要件が厳しいにもかかわらず、単一のプロバイダーしか利用していない企業に対して、ハイブリッド/マルチクラウドへの変革が求められるのです」との認識を示す。

こうしたことからIBMではインフラについては、他社のクラウドに加え、自社のクラウドやメインフレーム、ストレージなどシステムの下支えとなる製品・サービスで支援するとともに、ハイブリッド化に関してはRed Hatの「OpenShift」「Enterprise Linux」「Ansible」で標準化に対応し、AIは「IBM watsonx」で自社のコンサル部隊、システムインテグレーター、パートナー各社とハイブリッド・バイ・デザインへのシフトを支援している。

  • IBMは企業のエンドツーエンドのハイブリッドプラットフォーム化を支援している

    IBMは企業のエンドツーエンドのハイブリッドプラットフォーム化を支援している

バドラニー氏は「当社のミッションは、顧客に信頼される企業向けクラウドのプラットフォームになるということです。ハイブリッド・バイ・デザインを企業に導入するにあたり、IBM Enterprise Cloudはレジリエンシー、パフォーマンス、セキュリティ、コンプライアンス、TCO(総保有コスト)の5つの特徴があります」と力を込める。

続けて、同氏は「各国の規制要件に対応している点も強みであり、日本であればISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)に対応していますし、東京リージョンと大阪リージョンのマルチゾーンリージョン(MZR)を運用しているため、自国内でデータを保持できることからデータ保護しながらの支援が可能です」と強調している。

クラウドをエンタープライズ向けに提供していることが強み

バドラニー氏は「IBMは技術ベンダーとして顧客のハイブリッドクラウド化をガイドしていけると自負しています。強みはコモディティクラウドではなく、クラウドをエンタープライズ向けに提供していることに尽き、インダストリークラウドというアプローチを取っています。つまり、業種・産業別にクラウドを提供し、支援していることです。5年以上かけて世界各国100以上の金融系の顧客とプラットフォームを共創してきました」と振り返る。

その結果、さまざまな業種・産業に対してコントロールフレームワークとして適切なものは、どのようなものかを判断するとともに、コンプライアンスやセキュリティなどの要件に対応し、体制・姿勢を持っていることに長けているとのことだ。フルクラウド化やオンプレミスとの併用に向けた設計することも可能としている。

IBM Enterprise Cloudは当初、10未満の銀行から共創をスタートし、現在は100以上の金融機関、そして世界中の規制当局が関わっている。

バドラニー氏は「IBM Enterprise Cloudを考えたときに、意図的に最も厳しい金融業界からスタートしました。と言うのも金融業界の厳しい要件は、そのほかの業界でも適用できるからです。それぞれの地域における規制について、その場に合ったコンプライアンスを遵守できるような形でワークロードの構築を可能としており、各国の規制の承認を得ています」と強調する。

こうした、強みが醸成された背景にはRed Hatの買収がキーポイントになっており、同氏は「それ以来さまざまなベンダーを買収し、IBM Cloudに統合しています。IBMのプラットフォームが唯一、メインフレームやサーバ、SaaSなどすべてのスタックを提供できるのです。われわれはハイブリッドクラウドとAIに非常に注力しています。これをもってして、お客さまを支援しています」と胸を張る。

  • IBM CloudはミッションクリティカルなワークロードとIBM SaaSを支える“エンタープライズクラウド”だという

    IBM CloudはミッションクリティカルなワークロードとIBM SaaSを支える“エンタープライズクラウド”だという

実際、同社はIT自動化のポートフォリオ強化の一環としてTurbonomic、Instana、Apptio、HashiCorp、最近ではKubernetesのコスト監視・最適化ソフトウェアを提供するKubecostなどを、この過去2~3年間で買収しており、企業のハイブリッドクラウド化を支援する盤石の体制を築きつつある。

今年に入ってからは基盤モデル「Granite」のオープンソース化や、Red Hatと共同開発したLLM(大規模言語モデル)を強化するためのオープンソースAIプロジェクト「InstructLab」、生成AI開発プラットフォーム「Red Hat Enterprise Linux AI(RHEL AI) on IBM Cloud」、AIモデルを大規模に本番環境に導入することができる「OpenShift AI」、ApptioなどによるFinOpsの提供などが挙げられる。

最後に、バドラニー氏は「われわれはお客さまから信頼を得ているため、お客さまの次のジャーニーに向けてガイドしていくことが重要だと考えています」と述べていた。