NECとNECの創薬事業においてAIを活用した最先端の研究と臨床開発を担うNEC Bioは11月7日、独自の生成AI技術を活用してがん細胞由来抗原に対して高い反応性を示すTCR(T cell receptor、TCR)配列を予測する生成AIモデルを開発したことを発表した。

また、予測したT細胞受容体(※)が活性化することを、特定の物質に対する生体の反応を検出し評価する、細胞を用いた実験方法である「セルベースアッセイ」により実証した。

今回の成果は、TCRに基づくがん免疫療法開発において、開発期間の短縮やTCR候補の選別などに貢献できる可能性があるとしている。

※編集部注:T細胞受容体は、T細胞の細胞膜上に発現しているタンパクで、抗原を認識しT細胞を活性化する役割がある。T細胞は免疫系の一部を担う白血球の一種で、細菌・ウイルスやがんなどの異物(抗原)に対する免疫応答の中心的な役割を果たす。

TCRを用いたがん免疫療法の課題

TCRは、免疫細胞の一種であるT細胞上に発現する受容体であり、がん細胞由来抗原を認識しT細胞によるがん細胞への攻撃を誘導するため、がん免疫療法の有望なターゲットの1つとされている。

しかし、がん免疫療法に有用なTCRを同定する従来の手法では、ヒト末梢血サンプルからのTCR遺伝子クローニングなどの複雑な実験手順が必要であるため、がん細胞由来抗原を認識するTCRの選別を行うことは容易ではなく、TCRを用いたがん免疫療法開発の課題となっている。

独自の生成AI技術を用いたTCRの改変および有効性の確認

NECがTCR解析用に開発した独自の生成AIモデルは、がん細胞由来抗原に高い反応性を示す新規TCRの遺伝子配列を予測する。ターゲットとなるがん細胞由来抗原と、物理化学的なデータに基づくTCR相互作用情報を学習させた機械学習アルゴリズムを用いて、目的の抗原に対して反応性の高いTCR配列を予測し、がん細胞由来抗原との反応性の高さを示すスコアとともに提示することができるという。

また、開発した生成AIモデルは、これまでのTCR配列の改変を実行するAIモデルとの比較において、確度と精度の面で高い性能を示したことに加え、この生成AIモデルによって設計されたTCRは、セルベースアッセイにおいて反応性を示すことを愛知県がんセンターとの共同研究によって確認しているという。