10月29日から31日まで幕張メッセにて開催された「高機能素材Week」内の「第4回 サステナブルマテリアル展 - SUSMA」にダイセルが出展。開催が迫る大阪・関西万博での活用が発表された酢酸セルロース樹脂「CAFBLO」の新たな活用法や、木材を丸ごと溶かして再利用する超穏和溶解技術「KIPLAR」の技術アップデートを紹介した。
用途が広がる酢酸セルロース由来素材「CAFBLO」
1938年から酢酸セルロースの製造に取り組むダイセルは、酢酸セルロースに非フタル酸系可塑剤を配合し熱可塑性を付与したエコマテリアル「CAFBLO」を開発した。同素材の特徴は“海洋分解性”を有することで、自然、特に海に還るバイオマスプラスチックとして開発・利用が進められている。
CAFBLOを使用した製品はすでに多く出回っており、透明性という強みを活かしたガラス調の造形物としての利用に加え、食器類やホテルのアメニティ、文房具など日用品としても用途を拡大。また釣りで用いるルアーも販売されており、最終的に“海に還る釣り具”として話題を集めている。加えて昨今では包装材への適用も進められていて、ダイセルのブース担当者は「製品自体だけでなく、製品のパッケージにもCAFBLOを適用していくことを考えている」と説明した。
ダイセルによると、CAFBLOの技術革新はさらに続いているとのこと。特に重要なブレイクスルーとして、建造物として用いることができる大きなサイズでの使用が可能になった点を挙げた。今回のブースでは、CAFBLOで製造した1人用の休憩スペースを出展。5枚のプレートを組み合わせる形で作られた空間の形状は、「動物が暮らす樹木のうろのように落ち着くスペースをイメージした」ものだという。ダイセルの担当者は、CAFBLOを建築材料に用いた際の特徴として「穴をあけた場合でもヒビが入りづらく、断面も荒れない」ことがあると話す。今回の展示物も各プレートに穴をあけて組み立てており、またプレート同士を留めるボルトもCAFBLOでできたものだとする。
こうした技術革新もあり、2025年4月より開催される大阪・関西万博の敷地内において、竹中工務店による施工のもと、直径4.65m・高さ2.95mの休憩スペース「森になる建築」をCAFBLOを用いて製造することが発表された。またダイセルとしては、欧州の展示会などの展示会における商談室もCAFBLOで製造する計画があるといい、今後は建材としてもさらなる注目が集まるとみられる。また同社は認知度向上に向け、インスタグラムなどのSNSでの情報発信も 行なっていくとのことだ。
インスタグラム「CAFBLO」公式アカウント(@cafblo_official)はこちら
丸ごと溶かした木材由来の木質ボード製造が可能に
植物などからセルロースを取り出して素材として用いるのではなく、“植物を丸ごと溶かして素材として再利用する”という別角度の技術として展示されたのが、超穏和溶解技術「KIPLAR」だ。京都大学との共同研究を通じて開発されている同技術は、50℃程度の温和な環境下で木材などの植物を溶かし、その液体を用いてフィルムなどを製造するという、新たな植物利用技術だ。
前回の高機能素材Weekでも紹介され、多くの注目を集めたこの技術。現在では新たな進化として、さまざまな原料を組み合わせデザイン性を付与できるようになったといい、ブースでは野菜の外皮などで鮮やかな模様が見られるフィルムや、過酸化水素による漂白およびインクジェットプリントを施したフィルムが展示された。また想定されるユースケースの1つとして、一定の耐久性を活かした袋としての利用可能性もあるとする。
さらに今回は、フィルムだけではなく木質ボード「KIPLAR mold」としての利用も提案された。このボードは、木材を溶解した液体に同量程度の木粉を混ぜ加え、熱を加えながら金型でプレスすることで製造されたもの。こうした手法を用いることで、木材溶解液が木粉をつなぐバインダーの役割を果たし、接着剤フリーの木質ボードが実現されるという。
原料である植物や木粉の色合いが活かされ、独特な柔らかい質感が実現されるKIPLAR mold。また原料の香りが感じられる点も特徴だといい、ブースでは穏やかな香りを発するボードそのものの特性を活かした展示も行われた。ダイセルの担当者は、「ボードの厚みや耐久性を高めることで、建材などでの利用にもつなげていけるかもしれない」と、将来的な活用範囲への展望を語った。
サステナブルな未来へ多角的に技術を提案するダイセル
さらにダイセルブースでは、超極小のナノダイヤモンドと太陽光を用いてCO2を分解し、工場のカーボンニュートラル化を実現すると同時にCO2を材料へと変え利用する「太陽光超還元技術」や、温和な条件で木材から直接ナノセルロースを得ることで、里山のような環境でもバイオマス原料の抽出を実現する新たな成分分離技術など、サステナブルな未来に向けた幅広い技術を展示。また関係会社のダイセル・オルネクスおよびポリプラスチックスも出展し、化学・素材メーカーとしての幅広い取り組みをさまざまな角度から紹介した。