介護福祉業界に革命を起こすリーディングカンパニーとして知られるビジョナリー。愛知県と三重県を中心に全国20カ所以上に障害者グループホームやシェアハウス、訪問看護ステーションなど、多様な施設を展開する。企業理念である「世界中の人の人生を応援する」実現のため、常に新しいアイデアを生み出し、業界の枠を超えた取り組みを行う姿勢も注目されている。

2018年、同社内で結成したフィットネス実業団「7SEAS(セブンシーズ)」はその1つだ。7SEASのメンバーはビジョナリーで“マッチョ介護士”として働きながら、フィジークなどのフィットネス競技に挑戦する選手でもある。「自分たちのがんばる姿を通じて、多くの人に勇気を与えたい」と介護士と選手の“二刀流”を体現している。

  • 「VISIONARY DAYS 2024」で実施されたビジョナリーの障害福祉サービス利用者による「ボディパフォーマンスコンテスト」

    「VISIONARY DAYS 2024」で実施されたビジョナリーの障害福祉サービス利用者による「ボディパフォーマンスコンテスト」

9月21日には愛知県一宮市で大規模福祉イベント「VISIONARY DAYS 2024」を開催した。特別ゲストやワークショップ、ステージイベントなど、盛りだくさんのコンテンツを用意した。障害者や高齢者、子ども、介護を行う人や受ける人をはじめ、あらゆる人が楽しめる体験型イベントを目指したという。

  • ビジョナリー 代表取締役社長 丹羽悠介さん

    ビジョナリー 代表取締役社長 丹羽悠介さん

ビジョナリー 代表取締役社長の丹羽悠介さんは「イベントのテーマは『福祉をより身近に』でした。常日頃から、障害福祉に対する理解と関心を深め、福祉が身近な存在であることを感じていただけることを目指して、事業を行っています」と話す。丹羽さんに、ビジョナリーのこれまでとこれから、また独自の取り組みについてお話を伺った。

ボランティア経験を経て、介護福祉法人を起業

ビジョナリーが介護福祉法人として創業したのは2008年。丹羽さんが23歳の時だ。それまで丹羽さんは介護福祉業界とは縁がなく、学校を卒業してからは美容師として数年働いていた。その後は営業職に従事するも、信頼していた人に騙された経験から人間不信に陥り、しばらく引きこもり生活を送っていたという。

そんな丹羽さんを心配していた姉から「ボランティアで髪を切りに来てくれないか」と声をかけられたのが、丹羽さんと介護福祉業界との接点が生まれた瞬間だった。訪問介護士をしていた姉に付き添い、利用者の自宅へ行って髪を切った初めての日に「ありがとう、ありがとう」と感謝された。貢献できたことに大きな喜びを感じたという。

利用者の髪を切るボランティアを続ける中で、丹羽さんは業界への興味を深めていった。人から直接感謝されて、必要とされて、加えてクリエイティブな要素もある仕事だと感じていた。同時に美容師時代に抱いていた「経営者になりたい」という思いが再燃し、介護福祉領域での起業を決めたのだった。

創業メンバーは代表の丹羽さんと、副代表の姉とその友人の3人。高齢者の訪問介護からスタートし、やがて障害者の訪問介護も手がけるように。特に若い障害者が要介護者の場合、高齢者の介護以上に体力が必要とされる場面もあり、介護現場において力のある若い人や男性のサポートが重要だと気づいたことが、後のフィットネス実業団である7SEAS設立の原点となった。

16年にわたる経営の中で、大きな転機となったのは創業から3年が経過したころ。家族経営でスタートした会社に外部から仲間が加わり、6人体制に拡大していた。

「創業当初は特に大きなビジョンやミッションはありませんでしたが、生活が安定するにつれ、業界全体を本気で変えたい、貢献したいという思いが強くなっていきました。ハードな環境で懸命に働くスタッフや、ビジョナリーを頼りにしてくれる利用者やその家族のためにも、企業として成長し、発展させていきたいという思いが芽生え、家族経営からビジョン経営へとシフトしていくことを決めたのです」(丹羽さん、以下同)

フィットネス実業団結成で、人材採用に劇的な変化

当時、姉が退職し、ビジョナリーは5人で20人以上の利用者を介護する体制になっていた。地域からの評価も高まり、依頼が増加する中で、人材不足が深刻な問題となっていた。時には派遣会社の手を借りた。

人材を増やすために採用活動を行っていたが、求人媒体での募集では新規オープン時に多少の応募がある程度で、その後はほとんど応募がなく、年間で2~3人採用できれば良い方だった。スタッフ総出で友人や知人、親族など数百人にメールを送り、介護福祉業界に興味を持つ人を募ったが、期待通りの返事は得られず、採用にはつながらなかった。

この時期、丹羽さんは介護業界の人材不足の厳しさを痛感しつつも、競合他社も同様の課題を抱えていると考え、これを解決すれば後発でも業界で一歩リードできるのではないかと感じていた。試行錯誤の末、フィットネス実業団の7SEASを立ち上げることを決断する。

  • 7SEASのメンバーたち

    7SEASのメンバーたち

7SEASは、介護士の人材不足解消を目指すだけでなく、競技に情熱を注ぐ若者の夢を応援することも目的としている。また、社会的な影響力を持つトップアスリートを集め、彼らを通じて介護福祉業界への関心を高め、親しみを感じてもらう狙いもある。筋トレ2時間を勤務時間に含めるほか、プロテイン代の支給、24時間ジムの無料利用、コンテスト参加を出勤扱いとし、費用や交通費も支給するなど、競技者にとって魅力的な待遇を用意した。

「7SEAS結成前後で、応募者数は劇的に増加しました。以前は求人サイトでの募集にほとんど反応がなかったのですが、結成後は月に約80件の応募が全国から集まるようになりました。特に若年層を中心に、介護福祉に興味がなかった方々の応募が急増しています」

年間では約1,000件もの応募があり、以前と比べると400~500倍の増加である。“マッチョ介護士”としてメディアで取り上げられることも多く、その注目度が応募数に影響している可能性もあるが、長年の課題であった人材不足に対し、ビジョナリーが有効な解決策を見出し、成功しているのは事実である。他社や他業種でも応用できる採用手法として注目されている。

家族がいなくなっても安心できる、長期支援の体制づくりを

  • 20~30代を中心に若い力が多く集まっている

    20~30代を中心に若い力が多く集まっている

ビジョナリーは、16年間にわたり介護福祉業界に携わり、特に障害者支援に強みを持ってきた。障害者の家族が求めるニーズについて、丹羽さんは次のように語る。

「子どもの障害の有無に関わらず、どんな保護者も子どもには楽しく幸せに暮らしてほしいと願っています。そんな想いに応えるため、私たちは若い人材の採用を重視しています。高齢なスタッフだけでは、『いつまで担当してくれるのだろう』といった不安を家族が感じることもあるでしょう。若い力が求められている理由はそんなところにもあります。介護の現場では、単に身体介助や生活援助を行うだけでなく、利用者が困ったときに頼りになる存在が必要です。介護スタッフは、親しみやすいコンシェルジュのような存在であるべきだと考えています」

丹羽さんは、適切な距離感を持って接する介護士が求められており、介護する側とされる側は、あくまで「対等な関係」であるべきだと強調する。単なるサービス提供者と顧客の関係でもなく、互いが真摯に向き合える関係性の構築を目指している。

特に障害者の介護は、高齢者以上に長期的な関係を築くことが多い。障害を持つ子どもとの関わりは数十年に及ぶこともあり、その間に家族が先に亡くなるケースも多いという。

「最終的に利用者が家族を失っても、信頼できる関係を築いておくことが重要です。家族がいなくなった後も、安心して任せてもらえるサポートを提供することが私たちの使命だと考えています」

誰もが福祉と気軽に関われる社会を目指して

長く介護福祉に携わってきた中で、国や社会はどのように変わったのか。丹羽さんは、変化を感じつつも、事業者として期待するほどの進展は見られていないと語る。ただし、介護や福祉に対する人々の関心が高まっていることは実感している。

「福祉をより身近に」をテーマに掲げ、9月21日に開催した「VISIONARY DAYS 2024」はその一例である。障害者や高齢者、介護に関わるすべての人々が楽しめる体験の場を提供し、約600人名が来場して成功を収めた。

  • VISIONARY DAYS 2024での一コマ

    VISIONARY DAYS 2024での一コマ

「多くの方が福祉に関心を持ち、実際に行動するようになったことは喜ばしいことです。しかし、福祉がもっと日常の一部となり、誰もが自然に関われる社会を目指したい。たとえば、困っている人を見たら手を差し伸べる、福祉活動に気軽に参加できる環境が理想です。国の制度にも変化は見られますが、私たちがより影響力を持ち、政策提言ができるようになることが必要だと感じています」

福祉はボランティア精神が強く根付く業界だが、持続可能な運営のためには収益を上げる工夫が不可欠となる。丹羽さんは出店を増やしていくことで利益を確保し、社員への還元も可能にすることを成長戦略の中心としている。現在、拠点数は25カ所程度、展開地域は7~8都道府県で、複数の地域に新たな拠点を開設予定である。フランチャイズ展開は行っておらず、拠点を一気に増やすのではなく、着実に拡大していく方針だ。

単なる人手不足の補填だけでなく、さまざまな国の人々が活躍できる環境を整え、グローバルな展開を目指している。また、海外展開も視野に入れ、外国人採用も積極的に進めている。

フィリピンから10人を採用し、韓国でもプロジェクトが進行中だ。来年度中には海外に拠点を設ける計画を立て、必要に応じて現地企業のM&A(合併・買収)も検討している。

「全国展開については、3年以内に実現したいと考えています。年間で約1,000件の応募がありますが、離職もあるため、200人程度の採用が目標です。1拠点あたり12~13人の人員が必要なため、現状の採用力では年間10~15拠点の増加がマックスだと捉えています」

ビジョナリーは、介護福祉業界に新たな価値を提供し続けることで、福祉がより身近な存在になることを目指している。7SEASのような先進的な取り組みや、全国・海外展開を視野に入れた成長戦略により、利用者や家族からの信頼をさらに深めている。丹羽社長のリーダーシップのもと、ビジョナリーの未来はさらなる進化を遂げ、業界にとっての希望の象徴となるだろう。