スウェーデン王立科学アカデミーは8日、2024年のノーベル物理学賞を、人工ニューラルネットワーク(神経回路網)による機械学習の分野を切り開いた2氏に授与すると発表した。受賞が決まったのは米プリンストン大学のジョン・ホップフィールド名誉教授(91)と、カナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授(76)。2021年の真鍋淑郎氏(米国籍)以来となる、日本人の物理学賞受賞はならなかった。

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    ノーベル物理学賞の受賞が決まったホップフィールド(左)、ヒントン両氏のイラスト(ニクラス・エルメヘード氏、ノーベル財団提供)

人工知能(AI)草創期の1960年代には、コンピューターが認識できるように知識をデータ化した。これに対し、人間などの脳の神経細胞の働きをモデルにした方法でデータを処理するのが、人工ニューラルネットの手法だ。神経細胞は「ノード」(結び目、点)で表され、シナプスのような接続を介して影響し合う。80年代以降、人工ニューラルネットに関する重要な研究が進展してきた。

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    脳の神経細胞はシナプスを介してネットワークをつくり、学習によってその結合の強さが変わる(左)。人工のニューラルネットはその仕組みをまね、「1」「0」の信号を受けてノードの強さが変わる(ノーベル財団提供)

理論物理学者のホップフィールド氏は、電子や原子核が自転するスピンと呼ばれる性質をヒントに、ノード間の接続の強さを基にして値の更新を重ね、保存された画像を見つける方法を編み出した。

コンピューター科学・認知心理学者のヒントン氏はホップフィールド氏の成果を受け、特定の種類のデータの特徴的な要素を認識するよう学習する技術を開発。画像の特徴を捉えて分類したり、新しい例を作成したりする方法を生み出した。これにより機械学習の技術を確立し、現代の爆発的発展のきっかけを作った。

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    人工ニューラルネットのイメージ(ノーベル財団提供)

両氏の成果が基礎となり、近年はAIの能力が飛躍的に向上。深層学習(ディープラーニング)が広く利用されるに至っている。両氏の成果に対し同アカデミーは「受賞者たちの研究はすでに大きな利益をもたらしている。物理学では、特定の性質を持つ新素材の開発など、幅広い分野で人工ニューラルネットを使用している」と評価した。

賞金計1100万スウェーデン・クローナ(約1億6000万円)を両氏で等分する。授賞式は12月10日にスウェーデンで開かれる。

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