TikTokをはじめ、YouTubeショートやInstagramのリール動画、X(Twitter)など、スマートフォンで縦型の短尺動画を楽しめるプラットフォームが増えている。電車内や待ち合わせ中などについつい見てしまう。「もう少ししたらお風呂に入ろう」と思ったのに動画を見ているうちに気付いたら数時間が経過していた、という経験があるのは、筆者だけではないだろう。

また、SNSを見ている間に表示される広告やクリエイターの投稿を見て、「あ、これ欲しい」と思い実際に検索や購入などの行動につながった経験がある人も多いのではないだろうか。この"つい欲しくなってしまう"クリエイティブの裏側には、どのような仕掛けがあるのだろうか。筆者がこれまで何度か事例を紹介してきたInstagramを例に、短尺動画を使ったSNSでのブランディングについて取材した。

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Instagram上でのブランディングの特徴

Instagramといえば、以前はいわゆる"インスタ映え"と呼ばれるようなきらびやかな写真を見るためのプラットフォームである印象が強かった。しかし最近では、24時間で投稿が消えるストーリーズや、フォロー外の利用者の投稿もレコメンドされる発見タブ、そして短尺動画のリールなど、新たなつながりや興味を促す機能が追加されている。

Facebook Japan 営業部長の丸山祐子氏は「Instagramは一人一人に最適化して興味を持ちそうなコンテンツを表示しており、気軽に好きなものとつながるプラットフォームとして機能している」と話す。

  • Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏

    Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏

短尺動画を配信する他のプラットフォームと比較すると、上述した複数の機能による多面的なブランディングがInstagramの強みなのだという。単に短尺動画を投稿するだけでなく、フィードやストーリーズ、ライブ配信なども活用することで、よりブランドらしさを打ち出せる。

意外なことに、リール動画の視聴時間はInstagram利用時間全体の50%を占めるそうだ。リール動画を見て気になったブランドのフィードやストーリーズを見てみる、あるいはその逆の行動が起きているのだろう。いずれにしても、Instagramはもはや映える写真を投稿するだけのプラットフォームではなくなっている。

  • Instagramは多面的な投稿をサポートする

    Instagramは多面的な投稿をサポートする

その反面、Instagramでブランディングを効果的に伝えるためには、多様なクリエイティブが求められる。リール動画をよく見る人にはリール動画で、フィードをよく見る人にはフィードで、それぞれブランドを訴求する必要があるからだ。

従来の広告のように性別や年齢でセグメントを分け、ペルソナを仮定してマスに訴えるという手法よりも、むしろ多様なクリエイティブを多様な利用者に向けて表示する方が有効と考えられる。

「Instagram上で効果的にブランディングするためには、丁寧に作りこんだ1本の広告動画よりも、クリエティブやメッセージを多様化した方がパフォーマンスが高まる」(丸山氏)

化粧品を例にすると、テクスチャや価格、パッケージデザインなど、利用者によって魅力に感じる点が異なる。そのため、訴求するメッセージも多様化する必要があるそうだ。

「従来の広告制作は、多くの人に刺さるメッセージやコピーを多数の人が集まって議論し考えていた。反対に、Instagramを活用した広告はスピード感を持って多くのクリエイティブを作って結果を見ながらどんどん変えていける。クリエイティブ制作のハードルが上がったとも考えられるが、大規模な広告制作予算がない企業でも効率的なマーケティングが可能になるなど、多くの人にチャンスが広がったとも言える」と、丸山氏は話す。

  • Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏

効果的な短尺動画を作るための原則とは?

丸山氏がリール動画の作成を支援する際には、「9:16の縦型構成」「音あり」「セーフゾーンを守る」の3原則を伝えているという。セーフゾーンとは、Instagramの仕様としてテキストや「いいね」などのUI(User Interface)がデフォルトで重なる部分のこと。ここに動画内の文字が重なってしまうと読みにくい。

セーフゾーンを正しく守っている動画は、そうでない動画と比較してCTR(Click Through Rate:クリック率)が平均39%高くなるという結果もある。

9:16の縦型の動画を使うことで、視聴者のスマートフォンの画面いっぱいに動画を映せるため、没入感が高まる。縦型の動画とそうでないサイズの動画を比較すると、CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)が48ポイント低下するという。

また、音あり(音楽+ボイスオーバー)の動画は音なしの動画と比較して、好意的な反応を示す平均スコアが15ポイント高くなる。むしろ、筆者が普段短尺動画を見る限りでは、音ありの動画がもはや当たり前と言ってもいいくらいだ。

短尺動画の構成についても、押さえておきたいポイントは3つ。まず冒頭では、1~2秒のフックで視聴者の指を止めて注目を引き付けること。例えば動画の最初に「絶対に見て」や「はやりのこのアイテム知ってる?」のようなメッセージを打ち出すのも、有効な打ち手の一つ。

続く5~6秒程度の中盤では、商品の魅力などキーメッセージを伝える。終盤の15秒ほどは具体的な行動を促すメッセージを表示する。例えば、キャンペーン期間や商品の発売日などだ。広告の最後に商品やメッセージを表示するテレビCMとは全く逆の構成となる。

「Instagramに限らず、モバイルの動画視聴環境でどのようにメッセージを伝えるのかは多くの企業が悩んでいるはず」だと、丸山氏は指摘した。

  • 効果的なリール動画作成のための原則

    効果的なリール動画作成のための原則

あえて「映えない」のがトレンド

Instagram上では、洗練されたきれいなクリエイティブよりも、むしろリアルで共感できるクリエイティブが受け入れられやすいそうだ。同社の調査によると、若い消費者の84%が「ブランドのコンテンツが完璧でないときが好き」と回答したほか、79%が「広告で完ぺきな洗練されたイメージを見るのにうんざりしている」に同意したという。Instagram利用者の文化的な変化が表れている。

これに対し、あえて高性能ではないモバイル端末で撮影したローファイな素材を使用する企業も増え始めているとのこと。家族や友人などの投稿の間に表示されても浮かないクリエイティブをあえて作る戦略だ。

消費者の声を取り入れやすい点も、Instagram活用のメリットだという。一部の企業には、コメントをはじめとする利用者の反応やインサイトを同社が分析し、その上でクリエイティブに反映させるためのサポートなども提供している。

クリエイターとの連携で効果的なブランディングを

昨今のInstagram上でのブランディングでは、クリエイターやインフルエンサーを巻き込む点も特徴として挙げられる。「Meta Marketing Summit 2023」では、花王「ビオレUV」によるパートナーシップ広告の事例が紹介された。

Meta社の調査によると、クリエイターのコンテンツを見てから数日以内に商品を購入する人は71%にも上る。お気に入りのクリエイターに対しては時間やお金を惜しまない利用者が一定人数いるらしい。

また、18~34歳のうち「ブランドの声で聞くよりもクリエイターに聞いた方が信頼できる」と回答した人は63%、ブランドの売上向上にクリエイティブの質が貢献していると回答した人の割合は56%だ。

資生堂は、インフルエンサーなどのクリエイターが作成したオーガニック投稿を企業が自社の広告として配信するパートナーシップ広告の割合を全体の36%まで拡大。その結果、パートナーシップ広告とブランド広告の両方に接触した人の好感度が高まり、相乗効果が発揮された。

  • ビオレUV事例
  • ビオレUV事例

    ビオレUV事例

「資生堂や(House of Instagram Japan 2024で事例を紹介した)サントリーのような大きな企業は、莫大な広告費をかけて豪華な広告クリエイティブを作りこんでいるイメージがあるかもしれない。しかし、自社からの一方的な情報発信だけでなくクリエイターと一緒にブランドを作り上げていることは意外と知られていない驚きポイントなのでは」(丸山氏)

  • Facebook Japan 営業部長 丸山祐子氏

普段、移動中などに何気なく眺めるSNS。筆者はこれまで、いわゆる"インスタ映え至上主義"のようなイメージを持ったままだった。しかし、言われてみたら当たり前なのだが、Instagram上でのブランド展開や「欲しい」と思わせるための戦略は日々移り変わっているようだ。こうしたトレンドはこれからもどんどん変わっていくだろう。今後のブランド戦略の変化にも注目したい。