がん治療での遺伝子検査などに用いる「生体分子シークエンサー」の国産初となるプロトタイプ機を大阪大学などのグループが開発した。機器や検査が海外企業による寡占状態だったために、海外の技術に頼らざるを得なかった遺伝子検査・先進医療が、国産品の実用化で持続的に提供できるはずみがつくと期待できる。

  • alt

    阪大などが開発した生体分子シークエンサーのプロトタイプ(大阪大学産業科学研究所広報室提供)

生体分子シークエンサーは、遺伝情報を解読するための装置。遺伝情報であるDNAやRNAの塩基配列やアミノ酸配列を読んだり、がんマーカーになる化学修飾を直接検出したりして、遺伝子に基づくがんの診断や治療に役立つ。今回のシークエンサーは「第5世代」とされるもので、塩基配列を電気抵抗の違いを使って読み取ることでPCRによる遺伝子増幅を省くことができる。また、人工知能(AI)によって、配列の読み取り精度を上げている。

シークエンサーでの遺伝子検査は、がんの化学療法で患者それぞれについて薬の効きやすさを予測できる。高価な分子標的薬を使用する際も効果のある薬を選択できるなど、オーダーメード治療には欠かせない。ただ、現状では海外製のシークエンサーと海外の受託検査会社に依存している状況で、医療費やデータは海外に出ていくうえ、検査をするかどうかの決定が海外企業の販売状況に委ねられる状況だった。

大阪大学産業科学研究所の谷口正輝教授らは、2008年から生体分子シークエンサーの原理などを研究している。DNAやRNAだけではなく、20種類のアミノ酸が連なったペプチドのアミノ酸配列も読み取ることができる計測チップや計測装置を、医療機器や受託検査を扱うH.U.グループ中央研究所(東京都あきる野市)と共同で開発。ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(東京都港区)も加えた3者でプロトタイプ機に作り上げた。

  • alt

    生体分子シークエンサーのプロトタイプと操作のデモンストレーションをする大阪大学の谷口正輝教授(大阪大学産業科学研究所広報室提供)

谷口教授によると、汎用性の向上などのために機器の試作を2回ほど繰り返し、数年後には受託検査を開始したい考え。がん細胞をすりつぶした検体を機器にセットし、15分ほどの計測で検査結果が出る仕様にし、現状の遺伝子検査よりコストを10分の1にするのが目標という。

研究は、科学技術振興機構(JST)経済安全保障重要技術育成プログラムと日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業の一環で行った。10月9日から11日にパシフィコ横浜(横浜市)で開かれる展示会「BioJapan 2024」でプロトタイプ機を公開する。

関連記事

次々世代DNAシーケンサーの原理実証