2027年度までの5年間で総額43兆円の防衛財源の確保に向け、政府は1兆円程度の増税を予定しているが、この「防衛増税」が年末にかけて焦点に浮上しそうだ。というのも、自民党総裁選(12日告示、27日投開票)に立候補した茂木敏充幹事長が、経済成長に伴う税収増による「増税ゼロ」を打ち出したためだ。
増税を決めた岸田文雄首相の最側近だった茂木氏が「実現可能だ」と明言したインパクトは大きい。事実上、次期首相を決める総裁選の結果、茂木氏以外の誰が勝っても、25年度税制改正大綱で増税の是非が取り沙汰される可能性もあり、財務省は火消しに躍起だ。
鈴木俊一財務相は9月6日の閣議後会見で、茂木氏の「増税ゼロ」発言に関し「防衛力強化には安定的な財源が必要で、手続きを踏んで法律も通り、閣議決定もなされている」と指摘。防衛費の財源確保について「徹底した歳出改革や税外収入で最大限行う」とした上で、「それでも賄えない部分は税制措置でお願いすることとなっている」と政府の立場を強調した。
財務省は「茂木氏の主張はありえない」(主計局幹部)との立場。茂木氏の発言を巡っては、総裁選への立候補表明した林芳正官房長官が「一度決めたことを動かしていいのか」と批判するなど、自民党内から〝追い風〟もある。「財源確保があやふやになれば日米同盟を揺るがしかねない」(閣僚経験者)というわけだ。
ただ、財務省とも近いとみられていた茂木氏が財務省と〝対立〟を辞さない「増税ゼロ」を提起したことは総裁選後も尾を引くかもしれない。茂木氏は7日、「古い財務省の発想から転換する必要がある」とも言及した。「税率を上げないと税収は上がらないという考え方」を「古い」と喝破した。
総裁選の期間中、候補者の政策論争を通じて国民に「増税ゼロ」への理解が広がり、さらに国会で野党の厳しい追及を受ければ、新首相は再考を余儀なくされるかもしれない。