JR東日本はDX推進に向け、全社にわたるデジタルツールの活用を推進するとともに、イノベーションを担う人材の育成に取り組んでいる。同社のイノベーション戦略本部 ユニットリーダーを務める藤澤匡章氏が、旧VMwareのエンドユーザーコンピューティング(EUC)部門の新会社であるOmnissaが開催したイベントで、同社のDXについて講演を行った。以下、その模様をお届けしよう。

  • JR東日本 イノベーション戦略本部 ユニットリーダーを務める藤澤匡章氏

DX人財が現場のDX推進を支援

藤澤氏が所属するイノベーション戦略本部は、DX推進部門、R&D部門、情報システム部門から構成されている。DX推進部門はデータ分析による業務改革、オープンイノベーションの推進、5Gの利活用などを進めている。R&D部門は技術戦略策定・推進をはじめ、先進的な開発に取り組んでいる。情報システム部門では、働き方改革を推進するとともに、システムやデバイスの管理、情報セキュリティを担っている。

イノベーション戦略本部では、全社にわたるデジタルツールの活用推進、イノベーションを担う人財育成に取り組んでいる。

具体的には全社員にタブレット端末を貸与し、現場におけるMicrosoft 365の活用を進めるとともに、デジタル人材を育成するため、「DXプロ」「DXエバンジェリスト」を配置しいる。「DXプロ」は本社や支社に数名、「DXエバンジェリスト」は各職場に1名以上配置している。「DXプロ」「DXエバンジェリスト」が現場のDX推進を支援している。

全社員に端末配布、進むデータおよびAIの活用

全社員に端末が配布されたことで、いつでもどこからでも業務が行える環境が整備された。藤澤氏は「デジタルツールが業務を支援しており、現場の活用も進んでいる。これまでは、紙に手書きで持ち帰っていた情報も、今では現場で入力できるようになった」と語った。

また、InHouse、PowerAppsを活用した、社員によるアプリ開発も進んでいる。例えば、InHouseを活用して作られたアプリに「獣害情報共有アプリ」がある。「場所によっては、列車が鹿やイノシシにぶつかって、遅れることがある」と藤澤氏。そこで、同アプリでは、運転中に害獣が出没したら、iPadをタップして情報を登録し、指令承認後に後続列車にも通知する。これにより、後続列車の運転手は注意しながら運転できるようになる。

加えて、データ活用も進んでいる。藤澤氏は「共通のデータ基盤を整備しており、分析チームを作って、現場の課題解決におけるデータ活用を支援している」と説明。過去の乗客数などのさまざまなデータを分析することで、臨時列車をつくるといったことが可能になるそうだ。

さらに、藤澤氏はAIの活用例も紹介した。まず、安全な状態の生成AIに社内のデータを学習させて、業務に活用している。また、まもなく文書検索アシスタントがリリースされる予定だ。「当社は社内規定が膨大にあり、必要な規定をすぐに探すのが難しい。そこで、AIによって速やかにアクセスすることで、次のアクションをとれるようにしたいと考えている」と同氏。さらには、鉄道版生成AIを開発中とのことだ。「鉄道用語は独特であり、特有の技術もたくさんある。専用の生成AIによって、業務を推進したい」と同氏は語っていた。

  • JR東日本の人材育成の全体像、社員による業務課題解決の例

4万人の社員に配布された約10万台の端末、課題は運用管理の負担

こうしたデータ活用、AI活用を支えているのが、約10万台の端末だ。同社では、約3万5000台のPC、約6万8500台のタブレット、約8000台のスマートフォンが利用されている。

これらの端末は、オフィス、現場、サテライトオフィス、自宅、出張先、出先など、さまざまな場所で活用されており、PC・タブレット ・スマートフォンを使い分けて仕事ができる環境が構築されている。

これだけ端末の台数が多くなると、管理も相当煩雑なはずだ。藤澤氏は、以前抱えていたデバイスにまつわる悩みついて、次のように説明した。

「4万人を超える社員が業務に合わせた端末を所持しており、管理に手間がかかっていた。また、部署によってアクセスできるデータが異なるが、人事異動が多いため、部署にひもづくポリシーを端末に適用する必要があった。さらに、InHouseアプリとPublicアプリを手動で配信しており、その手間があった」

「Omnissa Workspace ONE」で異動時の人員・端末管理がシンプルに

こうした課題を解決するために導入されたソリューションが「Omnissa Workspace ONE」だ。同製品とActive Directoryを連携して、ユーザー、アプリケーション、端末、セキュリティの統合管理を実現した。

藤澤氏は、「Omnissa Workspace ONE」導入のメリットについて、「統合管理ができるようになり、端末の管理がシンプルになり、更新もリアルタイムで行えるようになった」と語った。

具体的には、端末を社員情報とひもづけて管理することで、運用管理業務の負荷が低減した。また、Active Directoryとの連携により、人事異動の処理、これに伴う端末台帳の更新がリアルタイムでできるようになった。アプリの配信もアプリカタログを用いて行えるようになり、煩雑なアプリ利用の承認を省いてホワイトリストで管理可能となった。

藤澤氏は、「部署を異動しても、それまで使っていた端末を持っていけるようになった。それも、誰かに設定してもらうことなく、必要な時に必要な情報が得ることができ、本当にラクになった」と語った。

端末を管理する側の負担もさることながら、利用する側も異動のたびに端末が変わっていては、初期設定やデータ移行など負担が大きい。これらにかかる時間だって無視できない。

藤澤氏は「企業によって実現したいことが異なると思うが、端末管理は共通の課題だと思う。端末の管理は手間だったが、課題が解消された今は、端末の活用に軸足を移していきたい」と語り、講演を結んだ。