サッポロホールディングスは、2023年3月に同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)施策の推進を加速するために「DX・IT統括本部」を創設した。特にその中の「DX企画部」では、DX・IT業務の連携および各事業会社との連携も強化し、DX推進力を強化する体制を整えたという。

今回は新設されたDX・IT統括本部に所属する、DX企画部 推進グループリーダーの安西政晴氏(取材当時、現在はサプライチェーンマネジメント部所属)、同部 アシスタントマネージャーの浜本あゆみ氏、同部 森本精太氏の3人にサッポロホールディングスが進めるDX施策について聞いた。

  • 左からDX企画部 浜本あゆみ氏、安西政晴氏、 森本精太氏

    左からDX企画部 浜本あゆみ氏、安西政晴氏、 森本精太氏

全社員DX人財化を目指し6000人がeラーニングを受講

サッポロホールディングスがDX推進の土台作りとしてBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:現在の社内の業務内容やフロー、組織の構造などを根本的に見直し、再設計すること)活動を始めたのは、2018年のことだ。

2018年にBPR推進基盤の確立を進め、2020年からはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の積極導入をはじめとする、業務改革とデジタル化の加速を行った。

「本格的なDX推進が開始したのは2022年のことです。弊社は、2022年3月に『4つのDX事業環境整備』のもと『3つのグループDX方針』を打ち立てました。この方針を元に、最終的には人工知能をあらゆる事業領域に活用できる状態を目指して、全社的な取り組みをスタートさせました」(安西氏)

  • サッポロホールディングスのDX推進について説明する安西氏

    サッポロホールディングスのDX推進について説明する安西氏

安西氏が語る「4つのDX事業環境整備」とは、「人財育成・確保」「ITテクノロジー環境整備」「推進組織体制強化」「業務プロセス改革」という4つを指し、サッポロホールディングスのDXを進める上で、整備するべき環境として挙げられたものだ。

またこの環境整備をもとに策定された、3つのグループDX方針は、「お客さま接点を拡大」「既存・新規ビジネスを拡大」「働き方の変革」という内容から成っているもの。この方針を元に、サッポロホールディングスのDX施策の最大の特徴とも言える「全社員DX人財化」を進める取り組みが始まったという。

「弊社では、全社員がDXの基礎を理解し、基礎的な知見を備えた人財になるという『全社員DX人財化』を目指し、全グループ会社社員約6000人を対象としたeラーニングを実施しました。これに加えDX案件を推進する素養を備えた『DX・IT推進サポーター』、DX案件の推進をけん引できる『DX・IT推進リーダー』という基幹人財育成のステップも用意し、より高度なスキルを持つ人財の育成に取り組んでいます」(安西氏)

また社内の人財育成とともに新規採用の強化や外部人財の活用なども同時に進めることで、より高度なレベルのDX・IT人財育成プログラムを進めたという。

社内外の垣根を超えた「DXイノベーション★ラボ」

このようにスタートしたサッポロホールディングスのDX推進だったが、2022年から2023年にかけて戦略を「人財育成」から「成果創出への準備」へシフトチェンジしたという。

「2022年との違いとして、全社員DX人財化の範囲拡大、データサイエンティストやノーコード/ローコード開発が行える『DXテクニカルプランナー』の増強、より実践的な内容の研修を実施する、といった取り組みを2023年は行ってきました」(森本氏)

  • シフトチェンジしたDX施策の内容を語る森本氏

    シフトチェンジしたDX施策の内容を語る森本氏

そして2022年に進めていた人財育成プログラムをさらに強化する一方で、「成果創出への準備」として「DXイノベーション★ラボ」の本格展開が行われたという。

「DXイノベーション★ラボは、社内外の垣根を超えた共創関係を構築し、大胆な業務改革や新たな事業モデルの創出を目指すオープンイノベーションの場として2023年5月に開設したものです」(浜本氏)

  • DXイノベーション★ラボについて語る浜本氏

    DXイノベーション★ラボについて語る浜本氏

同ラボには、グループ社員のほかにさまざまな業界の企業がパートナーとして参画しており、開設されている専用のポータルサイトを通してつながることができる。

2024年3月時点で連携している外部パートナーは31社で、既存事業の課題解決や新規事業展開などのDX企画に対して、さまざまなソリューションを提供してもらうことで新たな共創関係を築き、大胆な業務改革や新たな事業モデルの創出につなげる構想だという。

exaBase 生成 AIを試験導入

ここまで2022~2023年に行われた「体制・基盤作り(仕組み)」とも言える同社の取り組みを紹介してきたが、2024年は「成果創出(結果)」へ大きく舵を切った施策展開を行っていくという。その中で、森本氏がキーワードに挙げたのが「生成AI」だ。

「2024年、弊社は生成AIを早期に民主化し、DXの起爆剤として成果創出へつなげる検証を行っていく予定です」(森本氏)

この言葉通り、サッポロホールディングスは、2024年2月1日からExa Enterprise AIが提供する「exaBase 生成 AI」をサッポログループ各社の企画・管理系部門を中心とした約700人を対象に試験導入した。

今回の試験導入では、日常的に多くの工数がかかっている業務の品質と生産性の向上を目指しており、利用者へのプロンプト集の提供、および活用スキルを身に付けた推進人財の育成により、exaBase 生成 AIの活用定着を図るという。

また、試験導入の結果を検証し、対象部門・対象業務の拡大を行うことで、業務プロセス自体の改善や創造性の向上などのさらなる効果創出も目指す方針だという。

「まずはファーストステップとして事務系の業務に導入することで『業務の効率化』を図ることに重点を置いて進めています。今後は生成AIの特徴でもある『創造的な活用』も活用してアイデア出しなどのさまざまな部署への導入を検討していきたいと考えています」(安西氏)

今回、exaBase 生成 AIの試験導入を決めたサッポロホールディングスだが、ツールの導入および活用に際し、情報漏洩やアウトプットの扱いなどを考慮して「生成AIの利用ルール」を定めたという。

このルールを厳守することを社員内で共有することに加え、各部門での生成AI推進リーダーの設置や利用者向け説明会なども実施することで安全な生成AIの活用を目指す。

「またDXイノベーション★ラボを通じて、『各事業会社の生成AIの利用率の推移』や『質問回数ランキング』などを公開することで、どのような人が活発に生成AIを使用しているのかを共有しています」(森本氏)

最後に今後の展望として、サッポロホールディングスの生成AIへの向き合い方を聞いた。 「生成AIは、今後もどんどん開発が進む分野なので、その都度情報をキャッチアップし、方針も修正していきたいと思っています。使う人が増えれば業務はより効率化されていくと確信しているので、まずは使用してくれる人を増やすという点に注力していきたいと考えています」(安西氏)