大阪公立大学(大阪公大)と大阪大学(阪大)は9月27日、光合成のメカニズムを解明するため、「in vitro再構成法」を駆使して「LHCII」に人工的な変異を入れて作製した「rLHCII」の三量体の3次元構造をクライオ電子顕微鏡を用いて高分解能で解析した結果、rLHCIIがLHCIIと実質的に同一の構造を示すことを明らかにし、LHCIIの研究において前進を果たしたことを共同で発表した。
同成果は、大阪公大 人工光合成研究センターの藤井律子准教授、関荘一郎 JSPS特別研究員(現・阪大 蛋白質研究所所属)、阪大 生命機能研究科の難波啓一特任教授(常勤)、阪大 蛋白質研究所の栗栖源嗣教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」の姉妹誌で科学の幅広い分野を扱う学術誌「PNAS Nexus」に掲載された。
LHCII(Light-harvesting complex II)は主に光化学系IIに結合するアンテナであり、太陽光を吸収し、そのエネルギーを効率良く集めることのできる色素タンパク質複合体。LHCIIの単量体の中には、クロロフィルやカロテノイドといった18種類もの色素(分子)が詰め込まれており、光合成のメカニズムを完全解明するためには、それぞれの色素が持つ光学特性を特定する必要がある。しかしその構造の複雑さから、LHCIIに結合する色素の機能はこれまでのところ解明されていなかった。
その困難さを打破する上で極めて効果的な手法とされるのが、in vitro再構成法。同手法は、大腸菌で人工的に合成させたタンパク質と、植物の葉から抽出された光合成色素を試験管内で混合することにより、rLHCIIを生成するという手法である。タンパク質の特定の部位に変異を入れたり結合する色素の組成を変化させたりと、LHCIIの構成要素を幅広くデザインできることから、LHCIIの機能の本質を担う構成要素を明らかにできると期待されている。
これまで長年にわたってin vitro再構成法を用いて、対象となる色素の特徴を解明しようとする研究が続けられてきた結果、rLHCIIにおける色素を取り巻く環境を推定することには成功していた。しかし、rLHCIIの立体構造についてはまだ明らかにできておらず、デザインした通りに構造が再現されているのかが不明だったとする。そこで研究チームは今回、rLHCIIの構造解析に挑むことにしたという。
今回の研究では、まず、独自開発された手法を用いて、高分解能での構造解析が可能な純度でrLHCIIが取得された。そして、タンパク質などの立体構造の解明を得意とするクライオ電子顕微鏡法を用いることで、色素配置やタンパク質の構造が決定できる2.4オングストローム(1000万分の1mm)という高い分解能で構造解析に成功。その結果、rLHCIIとLHCIIの色素の配置やタンパク質の立体構造は、ほぼ完全に一致していることが確認されたとした。
その一方で、特定の色素が欠損していたり、置換していたりすること、さらにタンパク質の一部が見えていない(安定していない)こと、という相違点も明らかにされた。これらの結果により、rLHCIIがLHCIIを再現していることが確かめられ、LHCII研究において、in vitro再構成法が十分に有効であることを示せたとする。
今回の研究成果により、植物が太陽光を光化学反応に利用する分子メカニズムを完全解明するための研究の進展が期待できるという。将来的には、植物の光合成生産量の拡充や、人工光合成などの可視光利用技術に貢献することが考えられるとしている。