我々の生活を陰で支えている「ベアリング」という存在をご存じだろうか? ベアリングは、我々が生活の中で使用する冷蔵庫や掃除機などの家電製品、自動車、電車、飛行機などの乗り物といった多くの機械の回転部分を支えている。そんなベアリングについて今回は世界でも高い市場シェアを誇るNTNの軸受事業本部の方たちにお話を伺った。
産業のコメ! ベアリングの仕組みと深い歴史
ベアリングとは、機械の中の軸をなめらかに回転させる部品のことをいい、「軸」の回転を「受」け、支えることから「軸受」とも呼ばれている。構成としては、内輪、ボールやころ、外輪の3層で構成され、内輪と外輪(軌道輪)のあいだにボールやころ(転動体)を敷き詰めるほか、転動体が軌道輪から外れたりボール同士がぶつかったりするのを防ぐ「保持器」を付け、転動体が転がりやすいように潤滑剤を満たすことで、なめらかに回転し、さまざまな機械の回転部分を支えている。大きさは、小さいものでは直径数ミリ、大きいものでは風車に用いられる直径数メートル以上のベアリングもあるとのこと。
そんなベアリングの歴史は、紀元前にさかのぼると言われており、古代エジプトのピラミッド作りにも活用されていたとされている。
ピラミッドなどの巨大な建造物を作るには、人間の力だけでは到底運べないような大きく重い石をいくつも運ぶ必要があったとされているが、現代あるようなクレーンやブルドーザーなどの機械はない時代。そうした中で、当時の人が注目したのが「摩擦」だった。人々は、地面に円柱形の「ころ」を置き回転させることで摩擦を軽減させ、なめらかに動かし最小限の力で石を運んだという。
この「ころ」の原理が元となり進化することでベアリングが生まれ、イギリスで起きた産業革命によって世界へ普及していった。また、このベアリングの構造はイタリアの芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチが当時スケッチに描いていたアイデア構造とほぼ同じであることから、レオナルド・ダ・ヴィンチは「ベアリングの父」と言われているという。
こうした起源にもあるように、ベアリングの役割はまさに「摩擦を0に近づけ、回転をなめらかにすること」である。摩擦を0に近づけることで、回転に必要なエネルギーを少なくでき、その分かかっていただろう燃料を抑え、エネルギー効率を向上させることが可能となる。普段目にする機会が少なく、日の目を浴びる存在ではないものの、工業製品に欠かすことのできない存在であることから「(機械)産業のコメ」と呼ばれているベアリングは、「カーボンニュートラルや環境問題にも密接に関係する重要な存在です」と担当者は語っていた。
宇宙分野とNTNのベアリングの深い関係
こうした深い歴史があるベアリングであるが、特に乗り物系は家電製品などの小さな機械とは違い、大きな負荷がかかることからその衝撃や特殊な環境にも耐えうるベアリングを作る必要があり、NTNでは独自の精密な加工技術で性能を高めている。
中でも、宇宙分野は力をいれている分野だとし、1986年には三重県に航空宇宙用軸受専用工場である桑名製作所を建設。より専門性高く、宇宙用のベアリングの研究開発を進めてきたとする。
精度の高い研究開発が功を奏し、同年打ち上げられた「H-Iロケット」をはじめ、「H-IIロケット」「H-IIAロケット」と長年にわたり多数の国産ロケットに製品を供給し続けている。そして、2024年2月17日に種子島宇宙センターより打ち上げに成功した「H3ロケット」試験機2号機にも、エンジン向けターボポンプ用のベアリングを全数供給したほか、小惑星探査機「はやぶさ(MUSES-C)」の太陽光パネルを展開するための関節部位などにも使用されるなど、さまざまな実績を有しているとのこと。
同社の担当者は、「宇宙は真空度が高く、放射線への暴露や温度変化など過酷な条件が揃っており、万が一壊れたからと言って(ロケットが宇宙環境に行ってしまえば)すぐに直すこともできませんし、最悪の場合打ち上げ失敗となってしまいます。地球とは大きく違う環境でも性能・信頼性高くベアリングを回転させなければならないので、難易度の高い開発となりましたが、今までのノウハウなどを活かし組み合わせながら取り組みました」と当時の研究開発の様子を振りかえっていた。
独自性の点でいうと、極低温中でも潤滑性能を発揮する固体潤滑剤や、強化ガラス繊維による高強度な保持器を開発するほか、セラミックを材質とした転動体を適用するなど、過酷な環境でも高速回転するベアリングを形作ってきたとする。
NTNとしての今後の展望
「壊れないで使い続けられるようなモノづくりをするのが究極の課題であり、良い物を作りできるだけ長く使ってもらえるように開発をしている」と語る担当者。しかし、価格の問題や、さまざまな環境下で使用されることから、いくら良いもの作っても、壊れてしまう時は壊れてしまうとし、壊れた時に大きな影響がでないよう、壊れる前に対策をとり最小限の影響に抑えることが重要だとする。
そこでNTNが提供しているのが、軸受の稼働状況をリアルタイム診断・分析するシステム。初めは診断に労力がかかる風力発電用の状態監視システム(CMS:Condition Monitoring System)「Wind Doctor」からはじまり、近年では領域を拡大し、工場の製造設備などでもベアリングをモニタリングできる、産業用IoTプラットフォーム「Edgecross」に対応した軸受診断エッジアプリケーション「Bearing Inspector for Edgecross」を開発、さまざまな工場に向けて提供している。
「今はさまざまな異常検知システムが開発されていますが、ベアリング専門の会社としてベアリングに特化した異常検知で、壊れて大きなムダを作る前に対策を行えるような仕組みを作りたいです」としており、「今後も環境に適した精度の高いベアリングを開発していくと共に、動きを精密に測定・分析していくシステムを開発していき “ものからサービス”までトータルで販売することを目指し、最終的にはカーボンニュートラルに貢献していけるようにしたい」と担当者は語っていた。