立教大学は9月25日、カーリング競技において、投げられたストーンの曲がり具合を制御するために行うブラシで氷上を掃く「(曲げ)スウィーピング」に関して、ストーンの軌道を変えるにはどこを掃けばいいのか、相反するような複数の方法が五輪レベルでもチーム(選手)ごとに試みられているような状況だったが、曲げたい向きの「逆側を掃く(磨く)」ことが有効であることを測定によって示したと発表した。
同成果は、立教大学 理学部の村田次郎教授、同・大学 経済学部の園部日向子学部生(研究当時)、同・大学 コミュニティ福祉学部の荻原詠理学部生らの物理学者・学生選手の共同研究チームによるもの。詳細は、国際スポーツエンジニアリング協会が刊行するスポーツへのエンジニアリングの応用に関する全般を扱う学術誌「Sports Engineering」に掲載された。
カーリングでストーンが曲がる仕組みは100年近く未解明だったが、それを2022年に解明したのが村田教授だった。それは、ストーンの底のザラザラした突起が氷に引っかかり、それを支点として振り子のように振られている(旋廻する)というものだった。ストーンに加えた自転によって、氷に対するストーンの底の相対速度に左右で差が生まれ、これが左右での支点の数の差を生み、結果として速度が遅い側に振られる、つまり反時計回りなら左に曲がることを示すデータが得られたのである。
しかし、まだ未解明の部分もあるとし、ストーンが投げられた後、その軌道を制御するために行われる「曲げスウィーピング」が、実は科学的に検証した有意なデータがない状況だという。五輪レベルでもチーム(選手)ごとに「曲げたい向きと同じ側を掃く」、「曲げたい向きと逆側を掃く」、「前方を斜めに掃く」など、互いにまったく相容れない流儀に分かれているという。曲がり具合が制御される仕組みに関しても、「氷を掘ることで下り坂を作ってそちらへ導く」、「氷に傷をつけて石をその向きに沿わせる」、「氷を磨いて石の底の引っかかりを減らし振り子のように振られる現象を減らす」など、さまざまな考え方がある。そこで今回の研究では、園部・萩原両選手の依頼を受け、村田教授が曲げスウィーピングの効果に関する研究を行うことにしたという。
ストーンの曲がるメカニズムの理解に基づくと、曲げスウィーピングの正解は「曲げたい側の逆側を掃く」だろうと予測された。掃けば支点が減るので、掃いた側に振られる確率が減り、曲げスウィーピングに効果があるのなら反対側へ振られる頻度が相対的に高まることが推測されたからである。これは、スウィーピングによって積極的に曲げるというより、掃いた側へ曲がりにくくする、という消極的な効果と理解できるとした。
しかし、効果が測定できるほど大きくないと考えられるほか、測定の度に石の摩擦やスウィーピング自身などによって氷の状態が変化し、得られた効果がスウィーピングによるものなのか、状態が変動してしまうことによる誤差なのかの判断が難しいことから科学的な検証には困難が予想されたとする。そのため、効果が乱雑に生じるタイプの誤差に関しては、偶然のふらつきを平均化するために可能な限り多数回の測定が行われ、ストーンの発射速度も一定に保つように特別に発射装置が開発された。
さらに、多数回の測定によっても平均化されない、試行に一律に加わる好ましくない効果である「系統誤差」を相殺させる測定が工夫して行われ、物理学の手法を応用して得られた結果を統計的に慎重に解析することにしたとする。氷の状態の変化による誤差を抑制するため、スウィーピングなし、ありの測定を氷の上の同じ場所で行って停止位置を計測し、一組ごとに未使用の場所に変えて全部で39組、78回の試行が行われた。
得られた結果は、専門的には「スウィーピングあり、なしの差はゼロ」から2シグマ(標準偏差)の逸脱を示し、「効果なし」とする仮説を95%の信頼性で棄却できるものとした。これは、「実際には効果はなく、逆を掃けというアドバイスが間違いである可能性」が5%ほどは残っているが、95%は正解であるということだという。
またストーンの投擲では、常に変化する氷のコンディションを正確に読むことが重要だが、氷の摩擦係数を正確に計測できれば有利になることは間違いないとのこと。今回の論文では、曲げスウィーピングの効果だけでなく、選手が競技でも使用できるストップウォッチのみを用いて、氷のコンディション(氷上の摩擦係数)、つまり滑りやすさを測定する方法なども提示しているとした。
なお荻原選手は、今回の研究成果を知った直後に行われた当時の世界ジュニアカーリング選手権大会において銀メダルを獲得し、早速曲げスウィーピングの効果を有効活用することに成功したとしている。