大阪大学(阪大)は9月19日、抗菌薬がない状態での「薬剤耐性細菌」の形態について、「バイオインフォマティクス(情報科学)解析」により細菌の形態変化と薬剤耐性の関連性を明らかにすることに成功したと発表した。

同成果は、阪大大学院 薬学研究科の池邉美季大学院生、阪大 産業科学研究所(産研) の西野美都子准教授、同・西野邦彦教授、鳥取大学 工学部の青木工太准教授、理化学研究所 生命機能科学研究センターの古澤力チームリーダー(東京大学大学院 理学系研究科 教授兼任)らの共同研究チームによるもの。詳細は、微生物に関する全般を扱う学際的な学術誌「Frontiers in Microbiology」に掲載された。

  • 細菌は、薬剤耐性を獲得する際に自身の形態を変化させている

    細菌は、薬剤耐性を獲得する際に自身の形態を変化させている(出所:阪大 産研Webサイト)

抗菌薬(抗生物質)は、細菌による感染症の治療に不可欠だが、近年、抗菌薬に対する耐性を持った(抗菌薬が効かない)薬剤耐性菌および複数の薬剤に耐性を持つ「多剤耐性菌」が出現しており、世界的な脅威となっているという。耐性菌は、抗菌薬の長期投与などを原因として発生し、抗菌薬によるストレスで形態変化を起こすことが知られているが、薬がない状態での形態はよくわかっていなかったという。そこで研究チームは今回、研究室で進化させた10種類の抗生物質耐性大腸菌の形態をバイオインフォマティクス手法で解析し、耐性菌と感受性菌との間に見られる形態変化の度合いについて調べ、分類することにしたとする。

バイオインフォマティクス解析とは、コンピュータを使った統計学的解析やアルゴリズムを用いた、生物学的データを理解するための技術のことだ。解析の結果、形態変化は「キノロン系」(複数の細菌に対して強い抗菌力を示す抗菌薬で、細菌DNAの複製に関与する酵素を阻害することにより、濃度依存的に殺菌的な抗菌活性を示す)と、「β-ラクタム系」(分子中にβ-ラクタム環を持つ抗菌薬の総称であり、細菌の細胞壁であるペプチドグリカン合成の最終段階に関与する酵素群を阻害することにより、抗菌作用を示す)の抗菌薬に耐性を持つ菌で特に顕著であることが確認された。

  • バイオインフォマティクス解析による薬剤耐性菌の分類

    バイオインフォマティクス解析による薬剤耐性菌の分類(出所:阪大 産研Webサイト)

さらに、「クラスター分析」(データをその類似性に基づいて、いくつかのグループ(クラスター)に分けること)が行われたところ、細胞を太く短く変化させていることが突き止められたとした。それに加え、耐性菌の形態に影響を与える遺伝的要因について、エネルギー代謝や薬剤耐性に関わる遺伝子を特定することにも成功したという。そして、新たに開発された菌の形態(輪郭)をベースとする深層学習法を用いて、薬剤がない状態で耐性菌と感受性菌を識別することもできたとした。

  • 深層学習による薬剤耐性菌判別

    深層学習による薬剤耐性菌判別(出所:阪大 産研Webサイト)

今回の研究により、細菌の薬剤耐性化のプロセスにおいて生じる形態変化と遺伝子発現変化の関係について、細菌学と情報工学との異分野融合研究によって、複合的に理解することが可能となったという。将来的には、細菌の形態から薬剤耐性能を自動で予測する技術開発につながることが期待されるとしている。