北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は9月17日、バイオベースポリマーである「ポリフマル酸」から高密度にイオン液体構造を有する新たな高分子化イオン液体を開発し、同材料をリチウムイオン電池(LIB)用グラファイト負極バインダーとして適用することにより急速充放電能が促されたこと、また、ナトリウムイオン電池(SIB)用ハードカーボン負極バインダーとして適用することにより、PVDFバインダー系の2倍の放電容量を観測したことを発表した。
同成果は、JAIST 質化学フロンティア研究領域の松見紀佳教授、同・Amarshi Patra大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、環境発電やエネルギーの変換・貯蔵などに使用される材料に関する全般を扱う学術誌「Advanced Energy Materials」に掲載された。
生物資源由来の原料から合成される高分子材料であるバイオベースポリマーは、低炭素化技術として注目されている。研究チームは今回、その一種であるポリフマル酸の高分子反応によって、高密度にイオン液体構造を有する新たな高分子化イオン液体を合成することにしたという。
今回の研究ではまず、フマル酸エステルをラジカル重合させてポリフマル酸エステルが獲得され、それを水酸化カリウム水溶液で100℃において12時間処理し、透析を行うことでポリフマル酸が得られたとした。
そして、化学物質「アリルメチルイミダゾリウムクロリド」をイオン交換することで、「アリルメチルイミダゾリウムヒドロキシド」を調整。それを常温でポリフマル酸と中和させることにより、高密度な構造を有する高分子化イオン液体「PMAI」が合成された。
次に、PMAIのグラファイトとの複合材「PMAI/Gr」、ハードカーボンとの複合材「PMAI/HC」について、銅箔への接着性を引き剥がし試験により評価することにしたという。すると、いずれの系も樹脂の「ポリビニリデンフルオライド」(PVDF)との複合材系よりも大幅に改善された接着力が示されたとした。PMAI/Grは10.9Nを要し、PMAI/HCは11.0Nを要し、いずれもPVDF/Grの9.8N、PVDF/HCの9.9Nを上回ったとした。
続いて、PMAIのLIB用負極バインダーとしての性能が評価されると、アノード型ハーフセルにおける電荷移動界面抵抗はPMAI/Grにおいて21.9Ωであり、PVDF/Gr系の125.9Ωを大幅に下回ったという。これは、高密度なイオン液体構造が負極内におけるリチウムイオン(Li+)の拡散を促す結果と考えられるとする。また、PMAI/Gr系においては表面抵抗被膜(SEI)の抵抗も11.08Ωと低く、PVDF/Gr系の29.97Ωよりも顕著に低いことがわかった。
さらに、Li+拡散係数のインピーダンススペクトルにおける低周波数領域から解析が行われた。すると、PMAI/Gr系では1.03x10-10cm2/s、PVDF/Grでは3.08x10-12cm2/sとなり、前者において著しく低くなったという。結果として、作製されたアノード型ハーフセルはLIBにおける1Cにおいて297mAhg-1の放電容量を示し、750サイクル後に80%の容量維持率が示されたとした。また、PMAIバインダー系は、急速充放電能において適性が示され、5CにおいてPVDF系の約2倍の85mAhg-1が示されたとした。
最後に、PMAIのSIB負極バインダーとしての性能も評価が行われた。アノード型ハーフセルにおける電荷移動界面抵抗はPMAI/HCにおいて31.38Ωであり、PVDF/HC系の83.09Ωを大幅に下回った。さらにナトリウムイオン(Na+)拡散係数をインピーダンススペクトルにおける低周波数領域から解析したところ、PMAI/HC系では3.35x10-13cm2/s、PVDF/HCでは1.01x10-13cm2/sとなり、前者において3倍以上の拡散性が示された。SIBの負極ハーフセルにおいて、60mAg-1で250mAhg-1の放電容量を示し、200サイクル後に96%の容量維持率が示された。結果として、PVDF系の約2倍の放電容量を発現させたとした。それに加え、充放電後の負極が操作型電子顕微鏡(SEM)により観察されたところ、PVDF系と比較して大幅に負極マトリックス上のクラックが少なく、安定化している様子が観察されたとした。
今回の研究により、負極内の金属イオンの拡散が促進され、LIBとSIBの電池系の特性の改善につながることが見出された。高分子化イオン液体は極めて多様な応用範囲を有する材料群であり、高密度なイオン液体構造を有する新材料の創出は、多様な分野における研究を活性化させる可能性を有するとしている。