岩手大学は9月9日、芳香族アルデヒドの「シンナムアルデヒド(ケイ皮アルデヒド)」から、医薬中間体/化学薬品の「シンナミルアルコール」への無溶媒選択的水素化反応のための、イオン液体(IL)官能基化「SBA-15」上の「高活性小型白金-コバルトバイメタリックナノ粒子」を開発することに成功したと発表した。

同成果は、岩手大 理工学部 化学生命理工学科のEtty Nurlia Kusumawati助教らの研究チームによるもの。詳細は2本の論文として、米国化学会が刊行するナノマテリアルに関する分野全般を扱う学術誌「ACS Applied Nano Materials」に掲載された(1本目2本目)。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:岩手大Webサイト)

現在、化学製品においても、従来の化石燃料由来ではなく、環境問題の観点から再生可能資源である植物・農産物、その副産物や廃棄物などを原料とするグリーンケミカルが注目されている。特に、Eファクター(廃棄物と生成物の重量比)を大幅に削減し、コスト削減、エネルギー消費の削減、不要な産業廃棄物の削減が求められており、無溶媒反応システムの開発が重視されている。

シナモンの香り成分で、日本では農薬(殺菌効果がある)や飼料添加物としても利用されているシンナムアルデヒドも、その水素化において同様のグリーンケミカルが求められている。ただし、シンナムアルデヒドの無溶媒反応条件下でのシンナミルアルコールへの選択的な水素化は極めて困難だという。シンナムアルデヒドの水素化は、2つの競合的水素化部位(炭素=炭素と炭素=酸素)があり、炭素=炭素を経由する「ヒドロシンナムアルデヒド」の方が形成されやすいからだ。そこで研究チームは今回、メソポーラスシリカやナノ粒子を開発することで、選択的な水素化を試みることにしたという。

今回の研究では、イオン液体で官能基化したメソポーラスシリカSBA-15上の小さな白金-コバルトナノ粒子の開発に成功し、無溶媒反応条件下でシンナムアルデヒドをシンナミルアルコールに選択的に水素化することができたとした。イミダゾリウムイオン液体の特性を利用し、溶媒の助けを借りずに担持白金-コバルト触媒上で、シンナムアルデヒドの選択的水素化反応に焦点を当てた研究成果の報告は初めてのことだとする。

一般に固体触媒は非常に低い活性を示し、溶媒がない場合には容易に失活してしまう。しかし、白金-コバルト/IL-SBA-15は、無溶媒でもシンナミルアルコール生成に対して顕著な活性と選択性を示したとした。

今回の高い選択性は、白金δ-とコバルトδ+を有する小さな白金-コバルトバイメタルナノ粒子が形成されたためであり、このバイメタルナノ粒子は、モノメタルナノ粒子とは電荷密度が異なるとする。バイメタルナノ粒子中の白金δ-とコバルトδ+の存在が、C=Oを介した水素解離とシンナムアルデヒド吸着を促進するからだ。なお、バイメタル触媒の活性とシンナミルアルコール選択性は、白金/コバルト比が3:1から1:3に減少するにつれて徐々に向上したという。結果、PtCo3/IL-SBA-15(白金/コバルト=1:3)では、シンナミルアルコール選択率98.2%で最高の性能が達成されたとした。

開発された固定化イオン液体触媒は、さまざまな有機変換において有望な用途を示したとする。二酸化炭素分子を吸着する能力を有しており、温和でグリーンな反応条件下で二酸化炭素を価値ある化学物質に変換する二酸化炭素固定化反応に使用できるとしている。

今回の研究により、小さなバイメタル・ナノ粒子を形成するイオン液体の本質的な役割と、反応における固定化溶媒としての役割が実証され、溶媒を加えることなく反応を進行させることが実現された。今回の成果は、化学工業活動に起因する環境問題の解決を目指した、グリーンケミカルプロセス用不均一系触媒の開発に大きく貢献することが期待されるとしている。