機械の高精度化、高速化、長寿命化を実現する重要部品である「LMガイド」でトップシェアというTHK。今は機械の自働化が進む中で、「ものづくりサービス業」への転換をビジョンとして打ち出している。「ものづくりサービス業への転換を実現していくのが、私自身の大きな命題」と社長の寺町崇史氏。製品づくりに加え、「サービス」を通じて顧客のビジネス変革を支える考え方。寺町氏に今後の戦略を聞いた。
企業にとって最も大切なのは「人」
─ 2024年1月に社長に就任したわけですが、改めてどういう思いで経営を進めていますか。
寺町 THKは前社長(寺町彰博会長CEO=最高経営責任者)の時代から、グローバル展開、新規分野への展開、ビジネススタイルの変革を進め、22年にビジョンとして「ものづくりサービス業」への転換を打ち出しました。基本的に、この方向性は全く変わっていません。
社長への就任は指名諮問委員会での議論を経ての指名でしたが、会長CEOと、社長COO(最高執行責任者)である私との間でしっかり引き継ぎをしながら、中長期的な経営基盤をスピード感を持って構築し、ものづくりサービス業への転換を実現していくのが、私自身の大きな命題だと思っています。
─ 社員に向けては、どんなメッセージを伝えていますか。
寺町 ものづくりサービス業に転換していくために、4つのポイントを社員に伝えています。
第1に社員を大切にすることです。THKでは人材ではなく「人財」という言い方をしてきましたが、企業にとって最も大切な資産は「人」です。
これからの時代、人が不足してくる中で、今いる社員をさらに輝かせるためにはどうしたらいいか、今後入社してこようという人たちに選ばれるためにはどうしたらいいかを常に考えています。グローバルで世の中に貢献して、会社として利益を上げていけるか。その軸はやはり「人」だと考えています。
─ やはり、企業にとって何よりも大事なのは「人」だと。
寺町 ええ。第2にお客様、サプライヤー様などパートナーを大事にしていくことです。パートナーがいなければ、我々も価値創造していくことができません。
第3にイノベーションを大切にすることです。THKは「創造開発型企業」を標榜してきました。その根幹にあるのが、当社の経営理念「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」です。
先々代(創業者の寺町博氏)が「LMガイド」(Linear Motion Guide、世界で初めて直線運動部のころがり化を実用化。機械の高精度化、高速化、長寿命化などを実現する部品)を開発したわけですが、これを突き詰めるだけでなく、世の中にないものを我々なりの形で表現していくことがDNAだと思っています。そして作って終わりではなく、普及させるところまでがミッションだと考えています。
第4に株主様、社会を大切にしていくことです。株主様も大切なパートナーです。我々の事業活動をご理解いただき、応援して頂くことは大変重要だと思っています。また、「豊かな社会作りに貢献する」という意味ではSDGs(持続可能な開発目標)も、我々にとっては当然の考え方です。それをしっかり社員に伝えながら、社会に貢献できる会社であり続けたいと考えています。
製品、サービスを通じて顧客のビジネス変革を
─ 「ものづくりサービス業」として描いている姿を聞かせて下さい。
寺町 まず、「ものづくりサービス業」は、少し漠とした言葉にはなっていますが、英語にすると「manufacturing and innovative services company」となり、少しわかりやすくなるかなと考えています。
製品をつくり、お客様の課題解決をし、価値提供するということは当然やっていきますが、ものづくりだけでなく、サービスもビジネスにしていきます。ものづくり・ビジネス、サービス・ビジネスの両方を手掛ける会社に変わっていくということを目指しています。
冒頭に、我々の3つの戦略軸についてお話しましたが「ビジネススタイルの変革」という軸が加わったのが16年のことでした。この軸が加わった意味ですが、ちょうど「インダストリー4.0」が叫ばれAI(人工知能)、ロボット、IoT(モノのインターネット)が製造業に入り込んで来ると言われ始めた時期です。
我々はその流れをうまく活用して社内の生産性を向上させることに加え、製品、サービスを通じてお客様のビジネス変革に貢献しようと考えました。
これは、THKの社名のうち「K」と共通する考え方です。「T」は「Toughness」、「H」は「High Quality」、「K」は「Know-how」なのですが、我々自身がノウハウのある会社になると同時に、製品、サービスを通じてお客様の新たなノウハウづくりに貢献するという意味も込められています。
─ 社名が、すでに顧客への貢献を示しているということですね。
寺町 そうです。THKという社名は、我々のお客様に対するコミットメントであり、コアバリューだと考えています。その延長線上で「ビジネススタイルの変革」が加わったのです。
それ以降、我々の部品に後付可能なIoTサービスを加えたり、サービスロボットを商品として提供していく中で、それを発展させる形で22年に「ものづくりサービス業」をビジョンとして打ち出すに至っています。
─ 具体的にはどのような取り組みをしていきますか。
寺町 我々はこれまでサプライチェーンの中でビジネスをやってきました。我々は工作機械や半導体製造装置を作られるお客様に機械要素部品をお売りするわけですが、その先にはその機械を使われるユーザー様がいます。従来は、このユーザー様からのフィードバックを得ることが難しかった面があります。
しかし実際には、我々の機械要素部品が壊れて一番困るのは、機械を使われているユーザー様です。そのユーザー様の課題を解決するために、我々の部品を改良した方がいいのだということに、IoTサービスを展開する中で改めて気づきました。
これまでの製造業は、安くていいものをつくればいいというところから、自働化、人手不足、環境問題など、課題が複層化してきている中で、我々の要素部品をさらに進化させるためにも、機械ユーザー様の声を取り込んで、機械メーカー様、機械ユーザー様の双方にとって良い形を目指していくことが大事だということで、今取り組んでいるところです。
課題解決型ビジネスは創業時からのDNA
─ 新規ユーザーの拡大は進んでいますか。
寺町 これまで機械要素部品は工作機械や半導体製造装置、一般機械が中心でしたが、今は医療機器や物流など、自働化、ロボット化の流れの中で我々の部品をお使いいただく領域が着実に増えています。
そこに必要な新製品も出していますが、やはり機械を使われる、その先にいるユーザー様の声をダイレクトに聞くことをビジネスにしていくことで、さらに技術に磨きがかかった部品の展開ができると思っています。
─ 先ほどの社名の由来もそうですが、THKは最初から課題解決型ビジネスを手掛けてきたと言えますね。
寺町 我々のDNAだと思います。例えば主力製品のLMガイドも「直線運動部」のころがり化は困難とされていたものを、ころがり案内のスプライン軸受であるボールスプラインを開発し、さらに荷重により軸がたわむ課題に対して軸を台に貼りつけることで解決したものがLMガイドの原型です。軸とベースを一体化してレールにすることで品質や精度を高めることに成功したのです。
この軸を台に取り付けようと創業者が考えたことが、当時は非常に画期的でしたし、お客様の課題を解決するために開発した製品になります。
標準品を大量生産して販売するだけではなく、お客様の課題に伴走して、解決していくのが、我々のDNAだと考えています。
─ そのDNAを、今の最新のものづくり、サービスに生かしていくと。
寺町 そうです。自働化が進めば進むほど、機械が壊れると大きなロスを産みます。しかも、工作機械だけでなく、周辺の物を搬送するロボットなどがセットになって初めて、工程が自働化されていくわけですが、工作機械だけでなく周辺機器が壊れるだけでもライン全体が止まってしまう。しかも先進国を中心にメンテナンスする人も減っている。
そのため、20年に部品の状態を監視するサービス「OMNIedge(オムニエッジ)」を開始しましたが、故障の予兆を検知するサービスが非常に重要になってきています。部品の作り込みも徹底的に進めていきますが、その質を高めるためにも、お客様がどのような状態で部品を使われているかがわかると、その可能性は広がると考えています。
─ 23年のジャパンモビリティショーに自社独自の電気自動車(EV)を出展しましたが、この狙いは?
寺町 創業期から自動車の足回り部品は手掛けてきましたが、現会長の時代から、我々の直動技術はもっとクルマの中で使われる、電動化の中でさらにチャンスは広がるはずという考えを持ってきました。
ジャパンモビリティショーへの出展は我々のコアである直動部品を使ったら、自動車でこういうことができるという提案です。電動化、その先の自動運転化という世界が出てくる中、我々も後れを取らないように、持っている考え方を表現し、世の中に知ってもらい、そこを起点にビジネス、研究開発につなげていこうという考え方です。
組織再編を実行し取り組みを加速
─ 海外展開への考え方を聞かせて下さい。
寺町 冒頭お話したように16年以前からグローバル展開と新規分野への展開の2軸で取り組んでいますが、グローバル展開についてはお客様に近いところで生産し、提供しようという考え方で進めてきました。
またBCP(事業継続計画)の観点から、日本以外に中国、インド、米州、欧州でも同じ品質の製品を複数拠点でつくることができるようにすることと、現地で必要とされるものをつくることの両立に取り組んできたのです。
様々な地政学リスクもありますが、やはり中国は市場として大きい。そしてインド工場は20年に完成、21年に稼働していますが、マーケットが広がる中で、地元で必要な生産品種、生産能力を拡大しています。
考え方としては、営業・開発・生産のグローバル連携でグローバルカスタマーのビジネスを強化しつつ、ローカルのビジネスをこれまで通り伸ばしていくということで「グローカル」を大事にしています。その上で、海外の現地、お客様の事業エリアに工場があることは強みになると思いますから、バランスを取りながら進めていきたいと考えています。
─ 寺町さんは大学卒業後、住友商事で10年働いた後、THKに入社したそうですね。
寺町 2013年にTHKに入社したのですが、私自身が入社を希望しました。生まれてから今まで、私があるのはTHKのおかげという思いがあります。それに対して恩返しができているかというとこれからだと思いますが、その仕事に携わることができているのは、私の中では非常に嬉しいことです。
─ 住友商事ではどういう仕事でしたか。
寺町 一番長く所属したのはエレクトロニクス部門です。単に部品を売るのではなく、EMS(電子機器の受託製造)のようなビジネスの他、米国のベンチャーが手掛けた新素材を日本を含むアジアの企業に採用してもらうといった分野で営業を務めました。最後は1年間、広報部に在籍し、会社全体を見る機会もありました。
─ 社員にはどういうキーワードで呼びかけていますか。
寺町 「ものづくりサービス業に転換していこう」という言葉が、一番強いと思っています。この実現が我々にとって社会貢献になると考えています。
特に今年、機械メーカー様向けに機械要素部品を扱うLMシステムという営業部隊と、機械ユーザー様向けに新たなIoTを含むFAソリューションを扱う部隊とを分ける組織変更を行い、両分野への取り組みを加速させています。役割をさらに明確化して両者のシナジーを生むための仕組みをスタートさせたところです。
組織に壁ができてはいけませんし、社員にもしっかり説明して、腹落ちしてもらうことが大事だと思っています。変革期ですからいろいろなことは起きますが、一つずつ丁寧に進めながら、それを最終的に「ものづくりサービス業」につなげていくんだという強い意志を持って打ち出しています。