KDDIは9月3日と4日、最新のテクノロジーや共創事例を紹介するKDDIグループの最大規模のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2024」を虎ノ門ヒルズ 森タワー(東京都 港区)およびオンライン配信のハイブリッド形式で開催している。初日には代表取締役社長 CEOの髙橋誠氏が基調講演のステージに登場。同氏は人口減少や高齢化など日本の社会課題を挙げながらも、「非常にわくわくする時代になった」と語っていた。その真意とは――以下、同氏の講演の模様をお届けしよう。
日本は世界で最先端の事例を作り出す余地がある
冒頭、髙橋氏は書籍『2050年の世界 見えない未来の考え方』(日経BP 日本経済新聞出版 ヘイミシュ・マクレイ著)を紹介した。同書には、世界から見た日本の姿が描かれている。日本は高齢化する先進世界の先頭を走っており、高齢者がより高齢な人の面倒を見る国になる。さらに、経済のほとんどの分野で最先端からは遠ざかっている。
しかし、これは裏を返せば、日本のチャンスでもあるという。日本がこれから高齢化社会と向き合う姿は、世界として教訓となる。日本人が自信を持って成し遂げたことを世界に発信することで、より良い世界につながるとのことだ。
今後、国内の人口は減る一方といわれている。2023年の国内人口は前年比で86万人減少すると試算されており、これは大阪府堺市の規模に相当する。しかしその中で、新しいトランスフォームの仕組みやAIによる人的作業の代替、クリエイティブ人材の育成などにおいて日本は多くの事例を有する。
その他、高齢化が進む中での自動運転による送迎サービスや移動販売車など、地域に根差したモビリティ社会も進展している。さらには、AIの高性能化に対する省電力化やカーボンニュートラルに向けた電力効率化、IoTを用いたAIの付加価値向上など、日本が世界に発信できる事例は複数創出されている。
「環境の変化をいち早くとらえ、これをチャンスと考えて日本人らしい付加価値を提供することが重要になる。グローバルスタンダードを迅速に導入し、その上に付加価値をどのように乗せるのか、パートナーの皆様と一緒に考えていきたい」(髙橋氏)
AIの活用はエッジやデバイスで
KDDIは現在、ビジネスの成長に向けて「サテライトグロース戦略」を掲げている。これは、通信や5G、生成AIの領域を太陽に見立てて、その周りを取り囲む惑星のように「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「エネルギー」「金融」の事業成長を狙うというモデル。その外側には将来の成長分野として、宇宙やモビリティ、ヘルスケアなど5つの領域を定義している。
事業成長の中心となる通信では、2024年3月末時点までにSub6基地局を3.9万局開設。5Gの通信速度を約3倍に向上したほか、東京都と神奈川県でSub6エリアを約2倍に拡大している。2024年内には、Starlinkとの連携により日本全土をカバーする直接通信サービスを提供開始予定だ。同サービスは「日本のどこにいても、つながらないがなくなるように」「空が見えれば、どこでもつながる」がキャッチコピー。
また、同社はAI時代に打ち出すビジネスプラットフォームとして、「WAKONX(ワコンクロス)」を発表している。WAKONXでは、各業界に共通する課題に対しては「協調」して共通フレームを構築し提供するが、その一方で、「競争」領域においては各社が持つ業界特化の付加価値を利用するための計算基盤やソリューションを提供する。
同社のAIサービスを支える開発基盤としては、高SLAのハイパースケールデータセンターである多摩センターデータセンター、効率的な建設が可能なコンテナ型のデータセンターである小山データセンターを提供。加えて、SHARP堺工場跡地に数千ラック級のAI向けデータセンターの建設を検討している。
「AIはクラウド側から、小型のLLMなど低遅延で利用可能なエッジでの活用が進むだろう。今後はGoogleのGeminiをはじめApple Intelligenceなど、オンデバイスでの活用も進むはず。お客様との接点ががらっと変わる大きなチャンスの時代となった。音声通信だけだった昔の携帯電話がインターネットにつながるようになった際と同じことが起きている。ここには、チャンスとわくわく感しかない」と髙橋氏は語っていた。
ローソンと共にリテールテックなど活用した街づくりに挑戦
KDDIと三菱商事は2月、公開買付けなどによるローソンの非公開化に関する取引に合意していた。同社は今後、ローソンを中心とする街づくりに挑戦する。
髙橋氏は「フィーチャーフォンの時代から、いわゆるガラパゴス携帯になり、スマートフォンが登場し、ユーザー接点が大きく変わった。以前からユーザー接点を取り戻したいとずっと思っていたが、もっとお客様に身近な会社になるために始めたのがローソンとの取り組み」だと紹介した。
ローソンを中心とした街づくり「LAWSON TOWN」では、リテールテックの実証の場として拡大するという。具体的には、省人化や次世代モビリティ、災害支援、再生可能エネルギーなどに取り組む。
「先日アメリカを訪問した際に、事業の判断基準としてソーシャルインパクトが重視されるということが心に残っている。特に北米では、お金がもうかることよりも、自分たちの行為が社会的にどれだけ大きなインパクトを残すかを大事にしていた。当社としては、これからの高齢化社会や地方の課題に対して、ローソンを中心とした取り組みで大きなソーシャルインパクトを与えられると考えている」と、髙橋氏は展望を示した。