宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月22日、JAXAが開発した衛星レーザー測距(Satellite Laser Ranging:SLR)用小型リフレクター「Mt.FUJI」を装備したキヤノン電子の超小型衛星「CE-SAT-IE」に対し、筑波宇宙センター内に2023年に整備されたSLR局である「つくば局」からSLRを実施し、日本時間2024年8月2日20時32分にMt.FUJIからのリターン(反射光)の取得に成功、Mt.FUJIについて軌道上でSLR反射器として所定の性能が発揮されていることが確認できたと発表した。

  • SLR用小型リフレクターのMt.FUJI

    SLR用小型リフレクターのMt.FUJI。直径112mm、全高32mm、質量260g(C)JAXA(出所:JAXA Webサイト)

近年、人工衛星が増加していることや、衛星同士の衝突、さらには大国の無謀なミサイルによる衛星破壊などにより、スペースデブリが急増しており、「宇宙状況把握」(Space Situational Awareness:SSA)の重要性が非常に高まっている。レーダーによりある程度の大きさの破片なども追跡されているが、高度2000km以下の低軌道においては地上からの視認性の向上が有効であるとされている。そこでJAXAが人工衛星やロケットの上段に搭載するために開発したのが、軽量・小型の上に、低軌道で汎用的に利用可能なSLRリフレクターのMt.FUJI。

今回、CE-SAT-IE(サイズ約50cm×50cm×80cm・質量約70kg、2024年2月17日にH3ロケット試験機2号機により軌道高度670㎞、太陽同期軌道に投入)に取り付けられたMt.FUJIに対してレーザーが照射され、そのリターンが取得されたことにより、Mt.FUJIの軌道上性能が実証できたとした。

  • Mt.FUJIからのリターン取得画面

    Mt.FUJIからのリターン取得画面(C)JAXA(出所:JAXA Webサイト)

運用を終えた衛星やロケット上段などは運用中の衛星にとって衝突の脅威となりうる物体であり、万が一衝突した場合は、スペースデブリを増加させることになる。しかし、そうした物体にあらかじめMt.FUJIを搭載することにより地上からの視認性を高めておけば、軌道が正確に把握できるため、運用中の衛星の軌道を変更することができ、衝突回避への助けになる。それに加えて、Mt.FUJIを搭載することで、GNSS(衛星測位システム)を用いた軌道決定精度の検証も可能となるため、人工衛星の精密軌道決定にも役立つとする。

  • CE-SAT-IEに搭載されたMt.FUJI

    CE-SAT-IEに搭載されたMt.FUJI(C)JAXA(出所:JAXA Webサイト)

  • つくばSLR局からCE-SAT-IEに対するレーザ照射の様子

    つくばSLR局からCE-SAT-IEに対するレーザ照射の様子。波長532nmの緑色のレーザーを使用しているため、肉眼で視認可能だ。この時のCE-SAT-IEまでの距離は約1100km(C)JAXA(出所:JAXA Webサイト)

JAXAは今後、宇宙活動における安心・安全が保たれるよう、多くの衛星、ロケットにMt.FUJIが搭載されるよう、働きかけを行っていく予定としている。また、これまでMt.FUJIはJAXAの内製だったが、さらなる普及・安定供給を目的として、産業界へ設計・製作にかかる技術移転を進めているとした。