東京大学(東大)は8月13日、ヒトでない対象が感情を持っているように感じる「感情の読み込み」現象について、(1)形状のヒトらしさが中程度である対象(例:きのこの一種である“しめじ”)に社会的な動きが加わると、強い感情の読み込みが観測されること、(2)形状的にヒトらしい対象に社会的な動きが加わっても、感情の読み込みの度合いは、動きがない場合と比較して大きくは変わらないこと、という2点を明らかにしたことを発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科の植田一博教授、同・大学大学院 学際情報学府の今泉拓大学院生、立命館大学 総合心理学部の高橋康介教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、心理学の観点からコンピュータの使用を調査することに特化した学術誌「Computers in Human Behavior」に掲載された

個人差はあるものの、ヒトは生物でない対象に生物らしさを感じる「アニマシー知覚」と呼ばれる感覚を持っている。その一種として、ヒトでない対象に対し、それが感情を持っているかのように感じてしまう現象を多くの人が経験するが、その現象は感情の読み込みと呼ばれている。

アニマシー知覚分野の研究では、感情の読み込みを引き起こす要因として、対象の動きが検討されてきたという。一方、ヒトとロボットやコンピュータ、バーチャルキャラクターなどの「エージェント」のインタラクション(相互作用)に関する研究領域である「ヒューマン・エージェント・インタラクション」分野においては、ヒトらしい形状をエージェントに実装することで感情の読み込みを生み出す研究が進められてきており、感情の読み込みに影響する要因としての形状と動きは異なる領域として扱われてきたという。

中には形状のヒトらしさと動きが組み合わさることで、生じる感情の読み込みが変化する可能性を主張する研究も存在していたが、実験的な検討まではなされていなかったという。そこで研究チームは今回、その可能性を実験的に検討することを目的に、形状のヒトらしさが異なる3つの対象について、動きがある場合とない場合を実験刺激として用意することにしたという。

具体的には、静止画と動画について、「形状的にヒトらしいか」と「感情を持っているか」について質問紙で調査が行われた。形状的にヒトらしいかについては、「人型のイラスト」(人型)、少しヒトっぽいシルエットを持った「しめじ」(X:旧Twitterで話題になった「添い寝しめじ」を参考にして作成)、「マッチ棒」の3種類で比較。動画については感情を持っているかとして、2体の対象を直線的に近づけることで抱きしめることを意図した内容のものと、そのフレームの順番を逆にして、2体の対象を直線的に遠ざけることで離れることや別れることを意図した内容のもので比較が行われた。

その結果、静止画から人型、しめじ、マッチの順に形状がヒトに似ていると評価されたが、感情を持っているかについては、近づく動画ではしめじが人型よりも高く評価されたという。これは、「社会的な動き」(2体の対象間に、社会的な関係性があるように感じられる動き)がある場合、しめじでは感情が強く読み込まれたことが考えられると研究チームでは説明しており、形状があまりヒトに似ていない対象でも、それが社会的な動きを示す場合、見る者はより強く感情を読み込む可能性が示唆されるとしている。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要。形状のヒトらしさが中程度であるしめじに動きが加わると、見る者は感情を持っているように感じたことがわかった (出所:東大Webサイト)

また追試として、静止画と動画の立体感が感情の読み込みに与える影響および顔パーツの有無が感情の読み込みに与える影響の検討が行われたところ、立体感は感情の読み込みに影響しないことと、動きが加えられた場合、顔パーツがない方が感情の読み込みが強くなることが示されたとした。

  • 実験に用いられた静止画と動画

    実験に用いられた静止画(上)と動画(下)。左から、人型、しめじ、マッチ。この画像で動画は、最初、中央、最後のフレームが示されている。近づく動画と離れる動画は逆再生の関係。動画はストップモーション・アニメーションの形式で作成され、その長さはいずれも10秒 (出所:東大Webサイト)

今回の研究成果について研究チームでは、これまで別々に研究されてきた形状と動きに関する知見を統合したことで、感情の読み込みにおける社会的な動きの効果が、形状のヒトらしさによって異なる可能性が示されたとする。特に、動きが加わることで、形状があまりヒトらしくない対象に対して強い感情の読み込みが見られたことは、“添い寝しめじ”の場合のような日常で見られる感情の読み込み現象を説明することにつながるという。

  • 実験結果

    実験結果。(A)形状的にヒトらしいかについての結果。(B)感情を持っているかについての結果。両グラフは箱ひげ図が示されている。三角形のマークが平均値で、エラーバーの上端は最大値、下端は最小値が示されている (出所:東大Webサイト)

また、今回の研究で得られた知見は、シンプルで装飾の少ないキャラクターのデザイン、つまりミニマルデザインの意味を考える基盤を与えてくれる可能性があるとするほか、感情豊かなエージェントをデザインする際の実験的な裏付けとして利用可能であり、ユーザーが共感しやすいエージェントの作成に貢献することが期待されるとしている。