レゾナックは8月6日、材料開発のためのシミュレーションとして一般的に用いられる計算手法である「第一原理計算」と、人工知能(AI)を融合した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術」を、半導体集積回路向けの平坦化用研磨材料であるCMPスラリーに適用することで、半導体回路における研磨メカニズムを解明したと発表した。
昨今の半導体分野では、技術革新のスピードが加速、迅速に新材料を提供することが求められており、シミュレーションにより見当をつけて実験することで効率的な研究開発を進め、新材料の創出を従来以上に加速する取り組みの重要性が高まっている。
しかし、半導体製造プロセスにおいては、無機物、金属、有機物など異なる性質を持つ材料との界面における相互作用を計算する必要があり、一般的に使われる第一原理計算では、精度の高い計算結果は出せるものの、高い計算能力とそれをフル活用してもなお多くの計算時間が必要としている。しかも複雑な化学反応や、圧力などといった周囲の環境を考慮したメカニズムのシミュレーションは困難なほか、解析できる反応時間も限られていることから、半導体材料分野には適していないとされてきたという。
中でも、半導体製造に重要なプロセスの1つであるCMPスラリーを用いた半導体ウェハ(基板)の研磨工程に対しては、添加剤や研磨剤など多くの分子・原子が存在するうえ、基板の複雑な形状を細かくコントロールする必要があり、その全体把握のためにも時間的にも空間的にも大規模なシミュレーションが望まれていたという。
そうした背景の中、同社では数年前からAI半導体を用いることでAIの性能を高めたNNP技術を、半導体材料開発へ導入する検討を行ってきた。この最先端のNNP技術を用いると、第一原理計算から得られる数千万件にも及ぶ膨大なデータをAIに機械学習させる形で、第一原理計算に相当する高い精度で大規模なシミュレーションができるようになるという。実際のその計算速度は、第一原理計算では1000年以上かかるところ、100時間ほどに収めることが可能だとしている。
同社は今回、CMPスラリーによる半導体基板の研磨工程のシミュレーション実施に向けて最先端のNNP技術を用いた結果、ナノメートルスケールで複雑な界面の挙動を精密に可視化することができるようになり、実験だけでは捉えにくい複雑な研磨メカニズムに対して詳しく理解することができたとしてしている。
今回の取り組みを通じて、基板形状や加工条件など周囲環境の影響を含む詳細なプロセスが明らかになることで、より確度高く、求める機能を出す原料候補を見つけられ、結果として、新材料の開発期間が短縮できると同社では説明している。
なお、同社は今後もNNP技術の活用により複雑な半導体製造プロセスで起きている材料の挙動解明を進めていくことで、迅速な新材料創出につなげたいとしている。