核融合研究所(核融合研)と京都大学(京大)は8月2日、核融研の「オーロラ観測プロジェクト」において、分光計測システムを用いたプラズマ観測の技術を駆使して、オーロラの詳細な色を調べることができる観測システム「オーロラ観測用ハイパースペクトルカメラ」(HySCAI)をスウェーデン・キルナに設置して2023年9月より観測を開始し、初観測に成功したことを共同で発表した。

同成果は、核融合研の吉沼幹朗助教、同・居田克巳特任教授、京大 生存圏研究所の海老原祐輔教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球惑星科学と関連分野全を扱う学術誌「Earth,Planets and Space」に掲載された。

オーロラは、太陽由来の宇宙から降り込んでくる電子と上層大気の原子・分子との衝突によって引き起こされる発光現象。観測される光の大半は、中性または電離した窒素、酸素の原子の発光線や分子の発光帯で構成されており、遷移するエネルギー準位、分子の振動や回転によって色が決まる。オーロラはタイプによって発光色が異なるが、それがどのような発光プロセスなのかはまだ意見が分かれているという。オーロラの発光過程や色を詳細に調べるためには、包括的(時間的・空間的)なスペクトル(分光)観測が必要だ。

一方、核融合研では、超伝導プラズマ閉じ込め装置「大型ヘリカル実験装置」(LHD)において、磁場中のプラズマからの発光が観測されていた。これまで、その光のスペクトルを計測し、エネルギーの輸送過程や原子、分子の発光過程の研究が行われてきた。研究チームは、その技術と知識をオーロラ観測に適用することで、オーロラの発光の理解、それをもたらす電子のエネルギー生成過程の研究に寄与することができると考えたとする。

従来の光学フィルタを用いたオーロラ観測では、取得できる波長が限られており、その波長分解能が低いことが欠点だった。それに対してハイパースペクトルカメラは、波長分解能の高いスペクトルの空間分布を得ることが可能。そこで研究チームでは、2018年より、LHDでも活用してきた「EMCCDカメラ付きレンズ分光器」に「ガルバノミラー」を用いたイメージ掃引光学系を組み合わせることで、HySCAIを開発する計画をスタート。そして2023年に、1キロレイリー(kR)の暗いオーロラも計測可能なHySCAIの開発に成功したという。なお、kRとはオーロラの明るさの単位で、1kRは天の川の明るさに相当する。

2023年5月に、オーロラ帯の直下のスウェーデン・キルナにある同国宇宙公社 エスレンジ宇宙センターにHySCAIが設置された。そして同年9月より、日本からの遠隔操作での観測がスタート。そして今回、オーロラのハイパースペクトル画像を取得(オーロラの二次元像を波長ごとに分解)することに成功したという。

  • 電子のエネルギーが小さく低速で飛来した場合と、エネルギーが大きく高速で飛来した場合のオーロラの色の違い

    電子のエネルギーが小さく低速で飛来した場合(左)と、エネルギーが大きく高速で飛来した場合(右)のオーロラの色の違い(出所:京大プレスリリースPDF)

オーロラ発光強度の較正、および設置後に取得した星の位置から観測位置の較正が行われ、ユーザーがすぐにデータを利用できるようにした上でデータは公開中だ。2023年10月20日のオーロラ爆発も観測され、HySCAIを用いてどのようなデータを観られるのかが明らかにされた。その中で、異なる波長の光の強度比から電子のエネルギー推定が行われた。

電子が低速の場合は、高い高度で発光し赤色の光を強く出す。一方、高速の場合は、低い高度まで電子が侵入し、緑色や紫色の光が強く出てくる。HySCAIで観測された各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像により、光の発生する高さの違いで光を生み出す元素が異なるため、色による分布の違いが観測された。このように、オーロラが生み出すさまざまな色の二次元画像が得られる装置の開発に成功した。

  • 今回の装置で計測した各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像

    今回の装置で計測した各色(波長)に分解されたオーロラの二次元画像(出所:京大プレスリリースPDF)

赤色の光と紫色の光の強度比から、オーロラを生み出す降り込み電子のエネルギーを求めることが可能であり、HySCAIを使い、今回観測されたオーロラ爆発時の降り込み電子のエネルギーは1600電子ボルト(約1000個分の乾電池の電圧で得られるエネルギー)と見積もられた。これまで知られている値と大きな矛盾はなく、観測が妥当だったことが示されたという。HySCAIにより、降り込み電子の分布やオーロラの色との関係、オーロラの発光メカニズムというオーロラの重要課題の解決に貢献できることが期待されるとする。

今回のシステムは、従来の限られた波長のみを観測する手法の欠点を補うもので、スペクトルの詳細な変化を観測することで、オーロラ研究の進展に寄与するという。一方、核融合プラズマ中においても注目されている、磁場中の荷電粒子と波との相互作用によるエネルギー輸送についても知見を得られると考えられるとしている。今後、国内外の大学・研究機関と協力し、この学際研究を進展させ、世界のオーロラ研究の発展に寄与することが期待されるとしている。