国立極地研究所(極地研)、東北大学、電気通信大学(電通大)、産業技術総合研究所(産総研の4者は3月14日、北極圏のノルウェー領スバールバル諸島の町ロングイヤービンにおける観測で、近赤外領域の波長1.1μmで発光する、肉眼では見られないオーロラを撮像することに成功したと発表した。

同成果は、極地研 先端研究推進系の西山尚典助教、極地研 共同研究推進系の小川泰信教授を中心に、東北大 理学研究科 地球物理学専攻の鍵谷将人助教、同・土屋史紀教授、電通大大学院 情報理工学研究科の古舘千力大学院生、同・大学 情報・ネットワーク工学専攻の津田卓雄准教授、産総研 物理計測標準研究部門の岩佐祐希研究員らも参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Earth, Planets and Space」に掲載された。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:極地研Webサイト)

オーロラは、太陽から飛び出してきた電子や陽子が、地磁気の影響を受けて両極上空から大気圏に突入した結果、窒素や酸素などと衝突することで生じるダイナミックな現象。これまでのオーロラ観測では、緑や赤、青など、ヒトの目が認識できる可視光領域の波長において研究が行われてきた。

オーロラの観測は、古くは1地点で取得された画像データの解析が主流だったが、2000年以降、北米や北欧における地上光学観測の多点化・ネットワーク化が進み、地理的に隣り合う画像データをつなぎ合わせることで、グローバルなオーロラ現象(経度幅~100°)の分析も可能となった。しかし、地上光学観測ネットワークはオーロラ出現領域を"地理的に"カバーしているものの、夜が明けて観測点が昼に近づいてくると、空が明るくなり過ぎ、微弱な発光であるオーロラの検出が困難になってしまうという課題を抱えていた。

  • 太陽が地平線より5°上にある際に、真上を見上げた時の空の明るさが、波長ごとに計算された結果

    太陽が地平線より5°上にある際に、真上を見上げた時の空の明るさが、波長ごとに計算された結果。紫、緑、赤の縦破線は代表的なオーロラの波長(色)が示されている。今回の研究では、縦の黒破線で示された近赤外領域の1.1μmでオーロラが初観測された。紫や緑、赤に比べて太陽の明るさが3分の1以下であることがわかる(出所:極地研Webサイト)

その解決策の1つとして期待されているのが、可視光よりも波長の長い近赤外光によるオーロラ観測。この波長帯では、太陽光が可視光領域よりも地上に届きにくく、その一方でオーロラは可視光にも劣らない明るさで輝くことが1970~80年代に明らかにされていた。しかし1990年代以降、同波長域を使ったオーロラ研究はほとんど実施されておらず、同波長域を用いたオーロラ観測における技術革新やその実証が待たれていたという。

そこで研究チームは今回、光学系は監視カメラ用のレンズなどを利用しつつも、0.9~1.6μmの近赤外光に感度を持つ「InGaAs(インジウム・ガリウム・ひ素)検出器」を利用することで、比較的安価ながらも高性能な分光器とカメラを開発し、観測することにしたという。

そして、それらの観測機器がスバールバル諸島のロングイヤービンに設置され、2023年1月21日19時45分(現地時間)前後に、波長1.1μmで光るオーロラの撮像と分光観測が実現された。同時に、開発された観測機器が30秒以下という高い時間分解能の測定能力を持つことも実証されたのである。

  • 近赤外領域の1.1μmのオーロラ観測を目的に開発されたイメージング分光器とカメラ

    近赤外領域の1.1μmのオーロラ観測を目的に開発されたイメージング分光器(左)とカメラ(右)(出所:極地研Webサイト)

また、大型レーダー「European Incoherent Scatter Svalbard Radar」との同時観測データの解析から、近赤外オーロラの発光する中心高度が100~120kmであることも判明。宇宙空間より降り込むエネルギーの比較的高い電子が、この発光に直接寄与していることが示されたのである。

  • 分光器で取得された波長1.1μmのオーロラ発光スペクトル

    (左)分光器で取得された波長1.1μmのオーロラ発光スペクトル。非オーロラ発光成分の大気光に比べて10倍程度明るいことがわかる。(右)同じタイミングでカメラから取得された波長1.1μmのオーロラ画像。アルファベットのZのように湾曲した帯状のオーロラが出現していたという(出所:極地研Webサイト)

InGaAs検出器は食品や半導体、歴史的美術品などの多岐にわたる非破壊検査での需要が高く、その性能は近年著しく向上し続けている。現在のオーロラ観測は可視光によるものが主流だが、InGaAs検出器の技術躍進に加えて、近赤外領域では「空が可視光より暗い」「雲などの影響を受けにくい」といった特色を考えると、今後は近赤外領域によるオーロラ観測がますます重要となる可能性があるという。

今回の研究で初めて実証された技術は、地上からの観測の難しい「日照下オーロラ」の撮像につながる技術であり、さまざまなオーロラの生成メカニズム解明への貢献が期待されるとした。今回は夜間の撮像の報告だったが、現在、太陽活動の長期的な上昇期にある。日照の時間帯に強いオーロラ現象が今後出現することで、今回開発された観測装置による日照下オーロラ観測の機会もありえるとした。

また、InGaAs観測機器を用いた日照下オーロラの観測は、米国の研究チームによって、米・マクマード南極基地から約50kmの高度まで大型気球を上昇させ、それに搭載させたInGaAsカメラを用いて日照下オーロラを撮像するという内容のミッション計画が進められているという。

今後は、今回開発された観測装置を地上観測だけではなく大型気球や科学衛星などのプラットフォームへの応用を進めることで、地球の大気・オーロラに加えて太陽系惑星の大気観測にも大きな貢献が予想されるとしている。