OKIは、丸紅ネットワークソリューションズと共同で、スマートビルとスマートフォンアプリの連携によってビル利用者の健康的な行動の習慣化を支援する取り組みの効果を実証し、新サービス「Wellbit Office」として8月より販売を開始することを発表。鹿島建設のオフィスビルでいち早く導入が開始されることを報告した。

  • 「Wellbit Office」の利用イメージ

    新サービス「Wellbit Office」の利用イメージ(出所:OKI)

健康のためには階段を利用した方がいい、座りっぱなしは良くないので適度に歩いた方がいい、など、頭ではわかっているもののなかなか実行できていない健康行動を促進するための新サービス。ではなぜOKIがその開発に取り組むのか、そしてWellbit Officeの特徴はどこにあるのか。さらには将来的に見据える“ウェルネス”への貢献まで、新サービスの開発を主導したOKI イノベーション事業開発センター ビジネス開発部 ヘルスケア・医療チームの牛窪裕一チームマネージャーに話を伺った。

ヘルスケアに注力するOKIの新サービス「Wellbit Office」

OKIは2023年、企業の将来を支える新たな事業の創出と企業風土の改革に向けた「イノベーション戦略2025」を策定し、その中で4つのイノベーション注力領域を設定。高度遠隔運用・物流・CFB(Crystal Film Bonding)と並んで、「ヘルスケア・医療」の領域に注力し、この領域を2028年度までに年間30億円の事業規模へと拡大することを目指して事業活動を行っている。

  • 「イノベーション戦略2025」の概略図

    OKIが発表した「イノベーション戦略2025」の概略図(提供:OKI)

また同社はかねてより、行動科学や心理学の分野における研究成果を体系化した“行動変容理論”に着目してきたとのこと。そのきっかけには、東日本大震災により避難所での生活を余儀なくされた人々の健康問題があったといい、引きこもりがちな生活の中で健康的な生活習慣へと導くために、日常的な行動を変えるための技術が必要だと考えたという。そうした背景からOKIは行動変容技術に関する取り組みをスタートさせ、早稲田大学 人間科学学術院の名誉教授で、行動変容理論について長年研究を続ける竹中晃二氏とも2017年ごろから連携するなど、この理論に関連するさまざまな知見を深めてきたとする。

その後およそ6年にわたる研究を経て、行動変容理論に基づいて個々人に合わせてパーソナライズされたメッセージをタイムリーに配信することで、人々の行動変化を習慣化へと導く技術を開発。ヘルスケア分野で有効性の検証を重ね、2024年4月に行動変容プラットフォーム「Wellbit」として発表された。この時OKIは、同プラットフォームを活用して「健康的な生活習慣を支援するサービスの開発と商品化を進める」としていた。そして今般、そうした研究開発が結実し発表されたのが、Wellbit Officeである。

  • 行動変容技術「Wellbit」の概略図

    OKI独自の行動変容技術「Wellbit」の概略図(提供:OKI)

オフィス環境を利用者の健康経営に繋げるために

未曽有の感染爆発が起こった数年前、その影響で社会全体には半ば強制的にリモートワークが普及した。当時はオフィスビルから人が消え、それぞれの自宅が職場となったため、やはり外出の機会が減ってしまい運動不足に陥りやすい状況に。在宅勤務が働き方の選択肢として定着した今も、その傾向は続いているという。

ただここ最近では、出社と在宅勤務を併用したり、中にはオフィス出社中心の勤務体系へと回帰したりといった流れが見られる。しかしながら、数年間のブランクによって社内での対面コミュニケーションが減少している例も多く、オフィスの中でオンライン会議を行い対面での会話が無い人や、1日中同じ席に座りっぱなしで過ごす人も少なくない。また、労働生産性を高めるためには休憩を適度に取ることが効果的だとされているものの、その適切な取得ができている人が少ないことも課題だ。

運動不足やコミュニケーションの枯渇が続いていては、せっかくのオフィス出社にも意味があるとは言い難い。そのため企業によっては、フリーアドレスやABW(Activity-Based Working)などへの働き方の移行や、フロア間移動を活発化させる設計や植物の設置などといった空間の工夫など、ハードウェア面での「ウェルネスオフィス」への変革が進んでいるという。しかし、大きな投資によってオフィス設計に工夫を加えたはいいものの、特に施策が伴わなければ、いつも固定の座席を使用するようになったり、用意されたスペースへと向かう機会が生まれなかったりと、その施設を最大限に活用できない可能性が高い。そこでOKIが開発を目指したのが、ウェルネスオフィスの活用をソフトウェア面から支援する新たなサービスだった。

健康行動の習慣化を促すOKIの行動変容技術

今回サービス開始が発表されたWellbit Officeは、オフィス空間とスマートフォンアプリが連携することで、利用者のコミュニケーションや休憩、運動などを促進するというもの。スマホ上で、おすすめの業務場所や休憩の勧め、階段利用や歩行などを誘発するためのサジェスト、さらには食事に関するアドバイスなど、適した働きかけによって、効果的な行動の習慣化に貢献する。

  • Wellbit Officeのサービス概要

    Wellbit Officeのサービス概要(提供:OKI)

OKIの牛窪氏によると、同社のWellbit Officeが持つ強みとして、利用者に“行動への自信”を植え付け習慣化につなげるための働きかけがあるという。

既存の行動変容技法では、インセンティブを与えることでモチベーションを高める方法や、通知を与えることで行動を誘発する方法などが取られていた。しかし、前者では原資が必要である点や介入停止後に動機が低下する点が、後者では習慣化に至らず慣れによって効果が低下する点が、大きな課題だった。

そこで今回のソリューションでは、「ナッジ」×「ブースト」の両輪で行動変容を促進。オフィスやスマホのセンシングデータなどを活用しながら、毎日最適なタイミングでの行動誘発を行いつつ、言語的報酬によってその行動のメリットを刷り込むことで、自らの行動に対する“自己効力感”を高めて習慣化へと導くとする。

  • 既存の行動変容技法とOKIのソリューションの比較

    既存の行動変容技法とOKIのソリューションの比較(提供:OKI)

長期的な利用につなげるシンプルなスマホアプリ

具体的な手法としては、スマホアプリ「GreenUP」を通じて、行動データなどに基づいて個別メッセージを配信するとのこと。また歩数や階段利用数を可視化したり、利用者内でのランキング機能などで、健康行動の可視化も行うという。加えて、目標達成度に応じて日本各地の背景画像が解放されるなど“旅の記録”のようなエンタメ要素を盛り込むことで、アプリ自体の継続利用を促進。またチームを組んで協力しないと達成できないミッションなども用意し、コミュニケーションの創出にもつなげるとした。

OKIの牛窪氏は、GreenUPのアプリ自体に多くの機能を持たせるわけではなく、「すごくシンプルではあるものの、1日1回は開きたくなる」ようなものにすることを意識したとのことで、あくまで長期的な利用を見据え最適化した形だとしている。

  • 「GreenUP」の概要

    提供アプリ「GreenUP」の概要(提供:OKI)