三菱重工業(三菱重工)と量子科学技術研究開発機構(QST)は7月31日、南フランスで建設中の核融合実験炉「ITER」に用いられる、トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉における最重要機器「ダイバータ」の重要な構成要素である「外側垂直ターゲット」に関して、その高熱負荷試験体が2023年にITER機構による認証試験に合格したことを受け、今回、外側垂直ターゲットの実機大のモックアップとなるプロトタイプが完成し、実機量産化に向けた準備が整ったことを共同で発表した。

  • ITERの内部図

    (左)ITERの内部図。(中央)ダイバータ。(右)外側垂直ターゲット(出所:QST Webサイト)

核融合は、太陽が輝いている仕組み(エネルギー源)として知られ、数多くの原子と原子の融合のパターンがあるが、現在、研究が進んでいるのが、最もシンプルな反応の1つである重水素(D)と三重水素(T)による反応。この燃料の重水素と三重水素の原料であるリチウムは海水中に無尽蔵にあり、フュージョンエネルギー(現在、日本では「核」という文字がついていることによるマイナスイメージを払拭するため、核融合ではなくフュージョンエネルギーという言葉を使用することが国家的に推奨されている)はCO2を発生しないほか、原子力のように暴走事故を構造的に起こさない(核融合炉が壊れると核融合がすぐに止まってしまうため)など、比較的(DT反応の場合の核融合では中性子は発生する)クリーンなエネルギー源だ。

そうしたフュージョンエネルギーによる発電技術を実現するため、日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極が参加し、フランスのサン・ポール・レ・デュランス市で建設が進められているのが、核融合実験炉を建設・運用するための大型国際プロジェクトであるITER計画。

  • 外側垂直ターゲットの高熱負荷試験体

    外側垂直ターゲットの高熱負荷試験体(出所:QST Webサイト)

トカマク型をはじめとする磁場閉じ込め方式の核融合炉を実現するための最重要機器の1つがダイバータである。核融合反応を安定に持続させるために、炉心プラズマ中の燃え残った燃料および核融合反応で生成されるヘリウムなどの不純物を排出する重要な役割を担う機器だ。

ダイバータの熱負荷は、最大で20MW/m2に達する。これは、小惑星探査機「はやぶさ」のような探査機が大気圏に再突入した際に受ける表面熱負荷に匹敵し、スペースシャトルが受ける表面熱負荷の約30倍に相当するという。ダイバータは、トカマク型装置の中で唯一プラズマを直接受け止める機器であり、プラズマからの熱負荷や粒子負荷などにさらされる厳しい環境下で使用されるため、高融点であるものの難削材であるタングステンなどの特殊な材料が用いられている。さらに、プラズマ対向面には微小な形状加工が施されており、全体形状と共に、個々のプラズマ対向材の傾斜、段差、隙間には0.5ミリ以下の精度が必要となるなど、高精度の製作・加工技術が求められている。

QSTはITER計画の当初からダイバータの研究開発に注力しており、三菱重工が製造を担当(QSTがITERに納入する全58基中、三菱重工は発注済の18基すべての製作を担当)。今回、ITERの炉内機器の中で最も製造が困難とされるダイバータの構成要素である外側垂直ターゲットのプロトタイプの製作に成功したことを発表した。

  • 側垂直ターゲットのプロトタイプ1基の外観

    側垂直ターゲットのプロトタイプ1基の外観(出所:QST Webサイト)

なおQSTは、これまでITER向けの主要機器であるトロイダル磁場コイルの製作に取り組み、2023年までにすべてのTFコイル9基(うち三菱重工は5基を担当)を出荷済み。さらに三菱重工は、QSTがITERに納入するダイバータの外側垂直ターゲットの製作を進め、2025年度には6基分の納入を計画しているとしている。