畿央大学は7月31日、身体内部に注意を向ける課題(意識的なバランス処理課題)と比べて、できる限り動揺しないように随意的に制御する課題(随意的制御課題)の方が「足圧中心」動揺の平均パワー周波数が高く、高所などの「姿勢脅威」下の姿勢制御と類似することを明らかにしたと発表した。

畿央大 ニューロリハビリテーション研究センター/同・大学大学院 健康科学研究科の植田耕造客員准教授、同・森岡周教授/センター長、同・大学大学院の菅沼惇一大学院生、京丹後市立弥栄病院の中西康二氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、神経科学に関する全般を扱う学術誌「Neuroscience Letters」に掲載された。

姿勢脅威とは、直立姿勢の制御に影響を与える要因の1つであり、具体的には自分の身の安全に対し認識された脅威のことをいう。過去の姿勢制御の研究において、この姿勢脅威が姿勢制御を変調することが報告されていた。姿勢脅威は、高所で床面の端に立つなど、身のすくむような状況において生じ、静止立位時の足圧中心動揺の平均パワー周波数が高く、振幅が小さくなることが知られ、そのメカニズムとしては、姿勢脅威により身体内部に注意が向くことが理由と考えられていた。

しかし近年、身体内部(自己の足圧の移動)へ注意を向けておく課題(意識的なバランス処理課題)は、簡単な認知課題を行う課題と比べて静止立位時の平均パワー周波数は高くなく、姿勢脅威により平均パワー周波数が高くなるメカニズムとなり得ないことが示されたとする。

その一方で植田客員准教授らは、できる限り動揺しないように随意的に制御する課題(随意的制御)において、リラックスした課題や難しい認知課題を行う課題と比べ、静止立位時の足圧中心動揺の平均パワー周波数が高く、振幅が小さいことを報告していたという。そこで研究チームは今回、健常若年者(27名)に対し、静止立位時の随意的制御課題と意識的なバランス処理課題を比較し、随意的制御課題の方が姿勢脅威下と類似した姿勢制御になるのかどうかを検証することにしたとする。

今回の研究では健常若年者を対象に、下記の3条件において、各30秒間の静止立位時の足圧中心動揺が2回ずつ測定された。

  1. リラックス条件:リラックスして立つよう指示
  2. 意識的なバランス処理条件:立位中の足圧の移動に注意を向けるよう指示
  3. 随意的制御条件:できる限り動揺を小さく制御するように指示
  • 今回行われた実験の概要

    今回行われた実験の概要。この3種類の条件でもって、各30秒間の静止立位時の足圧中心動揺が2回ずつ測定された(出所:畿央大Webサイト)

検証の結果、左右方向の平均パワー周波数や高周波帯域において、随意的制御条件で意識的なバランス処理条件よりも高値が示された。一方で、RMS(root mean square)で表される足圧中心動揺の平均振幅に差はなかった。つまり、意識的なバランス処理課題と比べ随意的制御課題の方が静止立位時の足圧中心動揺の平均パワー周波数が高く、姿勢脅威下とより類似していることがわかったのである。また、静止立位時に身体内部に注意を向けるよりも、できる限り動揺しないように随意的に制御する方が足圧中心動揺の平均パワー周波数が高くなることが明らかにされた。

高所条件で姿勢脅威を引き起こしている過去の研究では、すべての研究で平均パワー周波数の増加を認められている。そして今回の研究成果から、意識的なバランス処理条件よりも、随意的制御条件の方が姿勢脅威下の姿勢制御と類似していることが示されたとする。このことから、姿勢脅威下では注意が身体内部へ向くだけでなく、随意的な動揺の制御が行われていることが考えられるという。そのため今回の成果は、姿勢脅威が姿勢制御を変調するメカニズムの概念的枠組みの一部の修正が必要であることを提案するとした。

  • 測定の結果

    測定の結果。左右方向の平均パワー周波数や高周波帯域において、随意的制御条件で意識的なバランス処理条件よりも高値が示された。一方で、RMSで表される足圧中心動揺の平均振幅に差はなかった(出所:畿央大Webサイト)

なお、臨床において、立つことが不安定で恐怖心を感じている症例の中には、随意的制御により姿勢制御が変調している対象者も存在する可能性があるとし、今後は、随意的制御の方法の違いによる姿勢制御への影響を検証する必要があるとしている。