秋田大学は5月24日、未解明だった温泉の入浴と睡眠の関係を調べるため、塩化物泉と炭酸泉について、成人男性8名を対象に、簡易脳波計と深部体温計(身体内部の温度計)を使って実験を行った結果、温泉に入浴した時の方が、入浴しなかった時や普通浴よりもよく眠れており、特に塩化温泉と人工炭酸泉に入った時に深く眠れていることがわかったと発表した。
同成果は、秋田大大学院 医学系研究科 保健学専攻理学療法学講座の上村佐知子准教授、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構の神林崇教授、米・スタンフォード大学 医学部精神科/同大学 睡眠・生体リズム研究所の西野精治教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、理学療法科学学会が刊行する理学療法研究を題材とする欧文学術誌「Journal of Physical Therapy Science」に掲載された。
就寝前に入浴すると、早く寝つき、よく眠れることがわかっている。入浴の場の1つである温泉は、古くから疲労回復や健康増進などに用いられてきたが、意外なことに睡眠に対する効果は調べられていなかったという。そこで研究チームは今回、健常成人(男性8名)を対象として、塩化物泉(秋田温泉さとみ)と人工炭酸泉(天然の炭酸泉は稀有なため人工炭酸泉で代用)への入浴が、睡眠促進に効果的であるかどうか、深部体温や脳波を計測することで調べたとする。
睡眠の評価は、塩化物泉・人工炭酸泉・普通浴・入浴なしの4条件において行われた。対象者は、4回にわたっていずれかの条件をランダムに割り当てられ、就寝前に入浴。入浴は40℃のお湯に22時から15分間浸かり、0時から7時まで就寝した(就寝中は簡易脳波計と体温計を装着)。また対象者は、入浴前後と起床時に眠気や疲労感などのアンケートに回答した。
計測の結果、入浴により深部体温が有意に上昇し、その後、就寝時まで顕著に低下した。なお塩化物泉に入浴した際には、平均深部体温が最も高くなったという。また、最初の睡眠周期におけるデルタパワー(第一睡眠周期の深い睡眠中に生じる4Hzのデルタ波の量)/分量は、入浴群で有意に増加し、最高値は人工炭酸泉群で記録され、次いで塩化物泉、普通浴、入浴なし群となった。
研究チームはこれらの睡眠の変化について、上昇した深部体温の大幅な低下(放熱)と関連していたとする。人工炭酸泉と塩化物泉のグループでは、熱放散の増加と深部体温の低下が観察されたとしている。またアンケートでは、に塩化物泉の入浴後に疲労感が強く出ていたという。
塩化物泉と人工炭酸泉では、普通浴条件や入浴なし条件で観察されたものと比較して、最初の睡眠周期中のデルタパワーが増加しており、深い睡眠が記録されたとする。なおその理由として、同じ温度のお湯でも塩分や炭酸ガスによる加熱作用の強い温泉に入った時には、熱の取り込みが大きく、入浴後に深部体温が大きく上昇したことが挙げられるとしている。
また、深部体温の上昇が強いとその反動で放熱が進み、入浴後90分後には深部体温が入浴しない時に比べて下がっていた。深部体温の下降は眠気や熟眠をもたらすことが知られており、研究チームはこの体温低下も温泉浴でより深い睡眠が出現した要因の1つだと考えられるとする。
なお、塩化物泉は入浴後に疲労感が認められたため、虚弱な高齢者には人工炭酸泉が最適であることが考えられるとしている。
睡眠不足や不眠が認知症のリスク因子であることが報告されていることから、温泉を活用した睡眠改善は、不眠症や認知症の予防にも役立つ可能性がある。研究チームは今後も、温泉を活用した不眠症や認知症予防に取り組んでいきたいとしたうえで、秋田県内の温泉の睡眠や疲労回復に対する効能を明らかにし、秋田地方の温泉の活用に貢献したいとした。