慶應義塾大学(慶大)は10月20日、着脱式の無線心電記録技術を確立し、実験室において、優劣関係にあるハシブトガラス2羽が対面している際の心電位を、無拘束・自由行動下において記録・解析を実施したところ、優位オスと対面した劣位(弱い)オスには心拍低下と副交感神経の活性が生じ、一方、その相手である優位オスの心拍は変化せず、交感神経の活性が生じていることを発見したと発表した。

同成果は、慶大大学院 社会学研究科の竹田和朗大学院生、同・高橋奈々大学院生、同大 文学部の伊澤栄一教授らの研究チームによるもの。詳細は、英王立協会が刊行する科学全般を扱うオープンアクセスジャーナル「Royal Society Open Science」に掲載された。

ヒトは社会的な動物であり、生きていく上で他者とのコミュニケーションは必須だが、そうしたコミュニケーションは、さまざまな感情や認知によって支えられていることが知られている。そのような心の働きには、脳の活動だけでなく身体内部の反応や状態も強く関わっており、いわば脳と身体の相互作用が重要であることがわかっている。

ヒト以外の哺乳類、鳥類、魚類といった多くの動物も、他者とさまざまな関係を構築しながら複雑な社会を営んでいることが知られている。そのような社会的生活における他者とのコミュニケーションは、感情(情動)や認知という心の進化と強く関係していることが指摘されていたが、脳と身体の働きからこの問題にせまる研究は、鳥類においてはほとんどなされていなかったという。

日本に生息するハシブトガラスなどのカラスは、他者を個体認識し、優劣関係とよばれる緊張的な関係や、毛づくろいをしあうような宥和的な関係を作る複雑な社会を営むことが知られている。そのような特定の関係を持つ相手とのコミュニケーション場面における、カラスの高度な認知機能やそれに伴う情動は、行動研究としては明らかにされていたが、心拍や自律神経系など、どのような身体反応が生じているのかはこれまで明らかにされていなかったという。

そこで研究チームは今回、自由に行動するカラスから心電図を記録する実験システムを開発し、優劣関係を形成したオス2羽(計8組)を実験室で対面させ、5分間、自由に行動させる実験を行うことにしたという。