筑波大学とWellmiraは7月30日、3か月間の減量期間において、スマートフォンの健康アプリで減量に成功する人の特徴を探索的に分析した結果、減量開始時に歩行習慣がない人の方が減量に成功しやすいことがわかったと共同で発表した。

同成果は、筑波大 体育系 スポーツ医学学位プログラムのSHI YUTONG大学院生、同・中田由夫教授、Wellmiraの佐々木由樹CPHOらの共同研究チームによるもの。詳細は、栄養学に関する全般を扱う学術誌「Nutrients」に掲載された。

肥満は、2型糖尿病、心血管疾患など、非感染性疾患の主要なリスク要因であり、日本を含め世界的な問題となっている。肥満解消のためのさまざまな対策が検討される中、近年、注目されているのが、Webベースで提供される生活習慣改善指導による減量介入(Webベース介入)だ。中でも、スマートフォンの健康アプリを利用した食事や運動の介入は、減量に効果的な方法として人気があり、公衆衛生的にも大きな意義があるという。

しかし、研究チームが過去に実施した、健康アプリの有効性を検証したランダム化比較試験では、その有効性が認められた一方で、実際の減量効果には個人差があることも示されたとする。そこで今回の研究では、そのデータを用いて、健康アプリを利用して減量に成功する人の特徴を探索的に分析することにしたという。

今回の研究では、先行研究のランダム化比較試験において、指定の健康アプリを利用した介入群に割り付けられた過体重または肥満成人68人(男性73.5%、平均年齢42.3歳)が対象とされ、この先行研究で得られた体重変化や身体活動量などのデータが利用された。参加者には、体重を測定するための体重計が提供されると共に、身体活動量をモニタリングするための加速度計が貸与された。また、自記式質問票ソフトウェアを用いて、参加者の基本的特徴(年齢、性別、身長、体重、運動習慣、歩行習慣、歩行速度、既往歴、服薬状況、家族歴、喫煙状況、職業、学歴、世帯収入、居住形態)が収集された。

参加者は、スマートフォンのアプリ内に毎日の食事(朝食、昼食、夕食、間食)、運動、体重、気分、睡眠を記録しており、これらの入力回数を介入への遵守性の指標とみなしたとする。介入期間中、研究チームはデータの入力回数をモニタリングし、食事の入力が週4日に満たない場合は参加者にメールを送り、継続的な記録を促した。ただし、このようなリマインドによる介入効果を避けるため、今回の研究の分析では、リマインドを行わなかった最初の1週間の入力回数を遵守性のデータとして利用することにしたという。

その結果、初期体重の3%減量を達成した人を減量成功者と定義すると、3か月の介入により、対象者68名のうち25名が減量に成功。そして、減量開始時の特徴とアプリ利用状況との関連が分析されると、1つの要因(説明変数)から「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を説明・予測する統計手法である「単変量解析」から、歩行習慣の有無と歩行速度は減量成功と負の関連が示されたとした。その一方で、家族歴(脳卒中、心臓病、高血圧、脂質異常症、糖尿病)の保有は減量成功と正の関連が示されたとする。

  • 3%以上の減量成功に対する多変量解析の結果

    3%以上の減量成功に対する多変量解析の結果(調整変数:性別、年齢、減量体験、体重変動、運動習慣、既往歴、教育歴、年収、同居状況、婚姻状況、最初の1週間の各項目のアプリ入力回数)(出所:筑波大プレスリリースPDF)

これらの変数を用いて、複数の要因(説明変数)から「2値の結果(目的変数)」が起こる確率を説明・予測する統計手法である「多変量解析」が実施された。すると、歩行習慣の有無のみが統計学的に有意な決定因子となり、減量開始時に歩行習慣がない人ほど減量に成功することが明らかにされた。このことは、もともと歩行習慣がない人ほど、アプリから配信される歩くことを促す通知に反応し、運動量が増えて減量につながった可能性が考えられるという。さらに、統計学的有意水準には達しなかったものの、歩行速度が遅いことと、家族に既往歴がある(家族歴がある)ことも、減量成功に関連する可能性が示唆されたとした。

健康アプリを使って減量に成功する人の特徴が明らかになったことは、今後の健康アプリの開発や改良、とりわけ健康アプリのパーソナライズ機能の向上に役立つことが考えられるとする。研究チームは今後、このような機能を追加した際の有効性について、さらなる研究を進める予定としている。