大阪公立大学(大阪公大)は7月29日、核酸の新たな生理作用の可能性として抗がん効果に着目し、DNAとRNAを用いてその抗がん効果を検証した結果、核酸の消化過程で生成される「ヌクレオチド」や「ヌクレオシド」が、がん細胞の増殖抑制効果を持つことを発見し、またヌクレオシドの中でも、「グアノシン」と「2'-デオキシグアノシン」にのみに抗がん効果があること、細胞周期のG1期(DNA合成準備期)からS期(DNA合成期)への進行を抑制し、がん細胞の増殖を抑えることを明らかにしたと発表した。

  • 今回の研究の概要

    今回の研究の概要(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

同成果は、大阪公大大学院 生活科学研究科の小島明子准教授、同・塩見奈穂子大学院生(研究当時・大阪市立大学 大学院生)、同・古田麻美亜大学院生(研究当時・大阪市立大学 大学院生)らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLOS ONE」に掲載された。

核酸とはDNAやRNAのことで、食品中に含まれる核酸は、身体のさまざまな生理機能を維持する上で、免疫調節機能や炎症抑制作用、脳機能改善効果、老化抑制効果、アルコール性肝疾患の予防効果など、多くの重要な生理作用を果たすことが明らかにされている。そこで研究チームは今回、核酸の新しい生理作用として、抗がん作用の可能性に着目したという。

食品の中でも、トルラ酵母と鮭白子には核酸が特に多く含まれている。トルラ酵母は、アメリカ食品医薬品局により食用として安全性が認められていることから、今回の研究では、DNAを豊富に含む鮭白子抽出物(DNA含有量:約80%)がDNAとして、トルラ酵母エキスから抽出されたRNAが豊富に含まれている画分(RNA含有量:約70%)がRNAとして用いられた。また、DNAをヌクレアーゼで加水分解し低分子化したものが、DNA加水分解物として使用された。

そして、マウス由来の「エールリッヒ腹水がん細胞」(EATC)を用いた細胞実験と、EATCを腹腔内投与することで作製された「担がんモデルマウス」による実験から、DNA、RNA、DNA加水分解物の抗がん効果が検討された。その結果、DNAはマウス実験ではがん細胞の増殖抑制効果を示した一方、細胞実験ではこの効果が認められなかったとのこと。また、RNAは細胞実験およびマウス実験の両方で、がん細胞の増殖抑制効果を示すことが発見されたとした。そしてDNA加水分解物は、細胞実験においても顕著な増殖抑制効果が示されたことから、核酸の消化過程で生成されるヌクレオチドやヌクレオシドが、活性成分として作用することが見出されたという。

そこで研究チームは、どのヌクレオシドが抗がん効果を示すのかを詳しく調査。すると、グアノシンのみが細胞増殖抑制効果を示すことが確認された。さらに、DNA加水分解物のヌクレオシドである2'-デオキシグアノシンでも、グアノシンと同程度の細胞増殖抑制効果が見られたことから、グアノシンおよび2'-デオキシグアノシンが、がん細胞の増殖抑制効果の活性本体であることが判明したとする。また、がん細胞内へ取り込まれる経路として、「Na+(ナトリウムイオン)非依存性平衡ヌクレオシドトランスポーター2」を介することが突き止められた。

次に、がん細胞の細胞周期におよぼすグアノシンおよび2'-デオキシグアノシンの影響について調べたところ、細胞周期のG1期からS期への進行を抑制していることが確かめられた。さらに、グアノシンと2'-デオキシグアノシンは、「CCAAT/エンハンサー結合タンパク質β」(C/EBPβ)の発現量を増加させること、免疫蛍光染色法によってC/EBPβは核内の「セントロメア」(染色体の中央部にある長腕と短腕が交差する部位)に局在することも解明された。

以上の結果から、グアノシンや2'-デオキシグアノシンは、C/EBPβの活性化を通じてがん細胞の細胞周期をG1期で停止させることで、抗がん効果を発揮することが明らかにされた。

  • 今回の研究で判明したこと

    今回の研究で判明したこと(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

研究チームは今回の研究により、食品中の核酸が有する生理機能について新たな視点が提供されたとする。さらに、その主要活性成分であるグアノシンと2'-デオキシグアノシンは、がん予防における重要な一歩となることが期待されるとしている。