新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2024年7月1日付で組織変更を行った。それに伴い、それまでエネルギー・環境・産業技術の発展のために、的確な技術戦略をつくることを目的としていた「技術戦略研究センター(Technology Strategy Center:TSC)」も、「イノベーション戦略センター(Technology and Innovation Strategy Center:TSC)」へと名称ならびに組織的な役割が変更された。そのTSCが7月26日、都内で説明会を開催し、新たな組織としての体制や目指すべき役割などの説明を行った。

  • 岸本喜久雄氏

    NEDOイノベーション戦略センターのセンター長を務める岸本喜久雄氏

NEDOにおけるイノベーション戦略センターの役割

NEDOは、「エネルギー・地球環境問題の解決」、「産業技術力の強化」をミッションにこれまで活動をしてきたが、その中でこれまでもTSCは主に、特許や各国の政策を含む技術情報の収集・分析に基づく、日本としての技術戦略の策定やエビデンスの政府への提供、およびその実現のためのプロジェクトの企画・立案と実際のマネジメントなどを役割としてきた。しかし、そうした役割は、初期の情報収集や技術戦略の策定、将来の有望分野の発展に向けたプロジェクトの企画・立案といった立ち上がりから2年程度の時間軸におけるもので、その後もプロジェクトを進めていく中で、政策のプライオリティが変化したり、予算の都合で一部のみの実施に留まることなどがあったほか、新たな技術やプレイヤーの登場や、国際情勢の変化に伴う見直しなどといった外部要因、そして技術開発以外の制度改革やコスト改善がうまく進まないといった要因など、さまざまな課題があったという。

  • NEDOのミッション

    NEDOのミッション。TSCでは、これまでは国や経済産業省への政策エビデンスの提供を主な役割としていたが、組織再編に伴う新たな役割として、競争力強化やオープンイノベーションの実現などまでその役割を広げることとなるとする (出所:第11回科学技術予測調査 ST Foresight 2019におけるNEDO発表資料)

そこで、新生TSCでは、これまでの活動方針の見直しを進め、技術戦略を通じたプロジェクトの企画立案に留まらず、今後に向け、国内外の技術・市場・政策の動向を踏まえた以下の3つの方向性を打ち出し、NEDOプロジェクトの構想、企画立案、マネジメント(運営・評価)そして社会実装というライフサイクル全体への貢献に取り組むこととしたとする。

  1. 各分野を俯瞰したInnovation Outlook等による政府の基本方針や戦略への提案
  2. 最新動向メモの提供等によるプロジェクトマネジメントへの伴走支援
  3. オープン・クローズ戦略等の社会実装を見据えた助言

また、関連する民間での取り組みの促進に向けて、メーカーや大学・研究機関のみならず、商社やファンド・金融機関、報道機関などに対する情報発信も役割として担っていくことも掲げており、そうした取り組みを通じて、民間での活用に向けたすそ野の拡大を図っていきたいともしている。

新生TSCの組織体制

今回の組織再編は、こうしたこれまでの役割から、NEDOプロジェクトのライフサイクル全体への貢献に向けた機能強化を実現するために実施されたものとなり、新生TSCとしては4つの重点課題を掲げている。1つ目は「経済産業省(経産省)での組織改革(イノベーション・環境局の設置)との連動で、「Innovation Outlook」「イノベーション戦略」「政策・予算への反映の仕組み」などの分野で貢献していくとする。2つ目は「NEDO内などへの技術インテリジェンスの提供」で「プロジェクトの伴走支援」「TSCコンシェルジュ(仮称)」によるサポートなどを掲げている。3つ目は「産学官での研究開発などの促進に向けた情報提供・助言」で「Innovation Outlook」「イノベーション戦略」「最新動向メモ」等に係る情報提供・助言、ならびにオープン・クローズ戦略に係る助言の実施、そして4つ目が「国・地域別の国際戦略」で「国/地域別戦略の策定」「海外のFA・研究機関とのネットワーク構築」を掲げている。

また、これまでTSCはNEDOのプロジェクト推進部門に位置づけられていたが、組織再編に伴い、企画立案、予算配分、全体ルール策定などの業務はプロジェクト推進部門の中に設置された事業統括部に移管され、新たにインテリジェンス部門として、政策エビデンスの提供や、プロジェクト推進部門への情報提供などインテリジェンス機能に特化した組織となったとする。

  • NEDO全体の新旧組織概要

    NEDO全体の新旧組織概要 (出所:NEDO Webサイト)

そのため、組織構造としても、これまでの「企画課」と「調整課」から一部の機能を事業統括部に移管する形で「統括課」が設立されたほか、全体を俯瞰し、日本として取り組むべくフロンティア領域の低減などを含めたOutlook作成などを行うための組織として「統合戦略ユニット」を新設。また、「海外技術情報ユニット」を、国・地域別戦略などのための機能強化を行う形で「国際戦略ユニット」へ、「新領域・融合(農水連携)ユニット」がスコープの明確化を目的とした名称変更として「アグリ・フードテックユニット」へとそれぞれ変更された。この結果、6個の技術ユニット(デジタルイノベーションユニット、ナノテクノロジー・材料ユニット、サステナブルエネルギーユニット、環境・化学ユニット、バイオエコノミーユニット、アグリ・フードテックユニット)と技術ユニットと横断的に連携する4つの横断ユニット(統合戦略ユニット、国際戦略ユニット、マクロ分析ユニット、標準化・知財ユニット)の合計10ユニット体制へと改められた。

  • 2024年7月時点でのNEDOイノベーション戦略センターの組織図

    2024年7月時点でのNEDOイノベーション戦略センターの組織図 (出所:NEDO Webサイト)

新生TSCの目指す方向性

新たなTSCの活動の方向性としては、これまでの個別の技術戦略構築から、Innovation Outlookを中核に、技術動向や政策動向を踏まえ、新たに踏み込むべきフロンティア領域の特定を目指すとしており、そうした新領域に対して、社会実装までの道筋を示すイノベーション戦略としてまとめていくほか、既存領域についても、海外動向を踏まえた国・地域別戦略の提言や最新動向メモなどの提供を行っていくとする。

この中核に据えられたInnovation Outlookについては、各分野で取り組むべく社会課題を示し、その解決方法や実現方法を示して、国内外の動向を踏まえた解決策を示すことを目指すという。また、こうした取り組みは、経産省のイノベーション・環境局によるフロンティア領域の探索や重点支援につながるものだともしている。

なお、新生TSCではこうした取り組みの基礎となるミッションを「未来を捉え、描き、共に創る(英語:Foresight、Design、and Co-creation for Our Future)」としており、フロンティア領域を特製し、イノベーション領域を策定し、伴走支援をしていくことで、持続可能なより良い社会創りにつなげていきたいとしている。