労働基準法の改正に伴い2024年4月1日より、トラックドライバーの時間外労働上限が年間960時間に制限された。加えて、「荷待ち時間・荷役作業時間の合計は2時間以内とし、すでに2時間以内の荷主業者は1時間以内となるように努める」とする政府ガイドラインも2023年6月に出されるなど、いわゆる「2024年問題」として働き方改革が進む一方、物流業界の人手不足が進むことや輸送能力の低下、物流の停滞などが懸念されている現状がある。

そうした中、世界的にも名高いコカ・コーラの製品製造・販売を手掛け、日々市場へと流通させているコカ・コーラ ボトラーズジャパンではどのような対策を行っているのか、2024年問題に対する取り組みを推進する上での同社の想いも含め、同社のSCM本部 ロジスティクス統括部 ロジスティクス戦略グループ統括部 グループ統括部長を務める髙木宏治氏にお話を伺った。

  • お話を伺った髙木宏治氏

    2024年問題へのコカ・コーラ ボトラーズジャパンとしての取り組みに関するお話を伺った髙木宏治氏

物流のネットワークを最適化する「メガDC」という存在

同社では、2016年5月から物流ネットワークの最適化として「新生プロジェクト」を進めてきた。その一環として建設されたのが、同社のシステムとして国内最大級の製品保管容量と出荷能力を備える基幹拠点「メガDC(自動物流センター)」だ。もともとあった工場に隣接する形で建設されてきており、2021年2月には埼玉県比企郡に埼玉メガDCを、2022年7月には兵庫県明石市に明石メガDCを稼働させた。並行して約70の物流拠点の統廃合を行いつつ、メガDCでは自動設備を導入することで、在庫の削減を図り、輸送効率を向上させ、首都圏および近畿圏の物流体制を支える存在だという。

そうしたメガDCの特長は、在庫を抱えず、入荷分をそのまま仕分けし出荷を行う「クロスドッキング方式」を採用した点にあるとする。同方式を採用することで、セールスセンターの倉庫作業は減少され、在庫管理スタッフの省人化のほか、エリアの巡回を行うルートカーごとに製品が仕分けされた状態で入荷されるため、ピッキング作業を行うことなく積み込みをすることが可能となり、セールスパーソンの業務負荷軽減にもつながっているという。

また、自動化設備として注目なのが日本では同社のみが導入しているという「RORO(roll-on/roll-off)ステーション」。これは500mlペットボトル製品約1500ケースを一括して無人でトラックに出し入れできる自動設備だ。

  • 一括して無人でトラックに出し入れできるROROステーション

    一括して無人でトラックに出し入れできるROROステーション

トラックの横側をあけ、フォークリフトで製品の出し入れをするのが一般的であるが(この横から出し入れするスタイルを作ったのもコカ・コーラであるという)、ROROステーションではこのフォークリフトの作業も不要だとのこと。「本当にドライバーさんがボタンを押すだけなんです」と髙木氏は話しており、フォークリフトでのトラックへの積み込み・積み下ろし作業と比較した場合、作業時間は約7割削減できるとする。

  • 一般的にはトラックの横側をあけて製品を出し入れする

    一般的にはトラックの横側をあけて製品を出し入れする

ROROステーションのシステムは、海外では活用が進んでいるのだが日本で同様の仕組みを実現するためには、トラック側とメガDCのような設備側の両方に対応する仕掛けを組み込むことが必要であるため、そのノウハウがない他社は簡単には真似できないと髙木氏は語る。同社では、専用トラックを120台ほど用意しており、日々の業務の効率化につなげているという。

  • ROROステーションに対応した専用トラック

    ROROステーションに対応した約120台の専用トラックを同社では活用して業務効率の向上を図っている

自動化が推進されているこのメガDCは年間8000万ケースを出庫可能な規模であるにもかかわらず、1シフト約20~30人という少数での稼働が可能とのこと。同社はメガDCのほかにも、エリア内に製造拠点として17の工場を保有しており、この「工場を多く持っていた」ことも物流の効率化には強みだと髙木氏は語る。

輸送距離を減らす「地産地消モデル」

工場を多く持つ強みを生かして同社が推進している取り組みが「地産地消モデル」だ。文字通りその地域ごとにできるだけ多品種かつ小ロット生産に対応できるよう製造体制を構築したモデルで、2022年と2023年の比較実績では、エリア間を跨ぐ長距離輸送を削減し、ケースあたりの輸送距離を平均17%削減に成功。また、経由拠点数削減につながるタッチ数は6%削減、輸送数量は9%削減したとする。一方、売り上げは前年比3%増と伸長させており、輸送数量は増えているにも関わらず、物流コストの削減と最適化を達成している。

ドライバー目線に立った真の「車両予約システム」とは?

物流の2024年問題に関する関連法施行の背景には、荷待ち時間などの“何もせずに待たなくてはならない時間”が大量にあり、こうした物流における非生産的な時間を削減することが働き方改革として必要なためである。これまで倉庫での荷待ち時間は夏場の繁忙期では7~8時間に達することもあったという。そうした中、同社では2022年から「トラック受付/予約サービス」といった車両予約システムを導入し、ドライバーの待機時間を削減する取り組みも推進しているという。

この予約システムの仕組みは、親元となる物流パートナーが前日にシステム上で空き時間を見て訪問時間の予約をすることで、ドライバーが指定の時間に来る前に倉庫側で受け入れ準備を進めることができるようになり、ドライバーが到着すると待たずに荷入れができるというもの。倉庫側からしてみても、荷待ちのためのドライバーが目に見えていなくなるため、効率化を実感できていると感じるのだという。しかし髙木氏は、まだここの取り組みにはドライバーの目線が取り入れられていないと語る。

現状の予約システムの仕組みでは、ドライバーにとって「待たされない」という点では良いのだが、好きな時間には行けず、空き時間ができても予約が埋まっている場合は倉庫側で対応してもらえないため、結局待ち時間ができてしまう場合があるためだという。

そこで同社は2024年7月からアプリの機能強化を実施。ドライバーのその時々の状況で予約を変更できる仕組みを導入。親元となる輸送会社が予約しておく必要はあるものの、当日にドライバー自身がその時間を変更できる仕組みを構築した。

「予約を取ってしまうと、時間帯の枠ごとに余裕がないのが業界全体の現状ですので、予約変更しようとしても全部埋まっているというオチになります。そのため他社さんはあまりそこにオポチュニティを感じていないのではないかと思っているのですが、みんながうまくやり始めたら、多少でも時間の有効活用ができるようになるのかなと思っているんですよね。そうした意味で導入することに価値があると思っています」(髙木氏)

倉庫からの目線とトラックからの目線は大きく異なる。倉庫はトラックが待っていても待っていなくても順番に対応していけばよいのだが、、ドライバー側からしてみれば、待たされるという大きな負荷がかかってしまう。そうした“トラック側の目線”に立ちドライバーファーストの取り組みを進めることで、同社は荷待ち時間・荷役時間をシステム導入前対比でおよそ50%短縮させ、待機の総削減時間を運行時間に置き換えると東京-大阪間で4000往復相当の効果を出しているという。今後、荷待ち時間状況のデータの分析を進めていくことで、ゼロ時間待機を目標に改善を続けていきたいとしている。

物流改革に込めた選ばれる会社になりたい想い

さまざまなことに挑戦し、物流業界の活性化を目指すコカ・コーラ ボトラーズジャパン。しかしITツールを作るだけ、入れるだけでは根本的な解決にはならないことも髙木氏は強調する。

「弊社もITツールを導入していますが、そうしたツールを作って導入すれば全部解決するわけではないと思っています。仕組みはもちろん良くしていかなくてはいけませんが、それを使う側の我々も、仕事の考え方ややり方から見直して最適化していくことが大切だと思います」(髙木氏)

では、どのような想いで物流の効率化に向けた取り組みを推進しているのか? 髙木氏に聞くと、“輸送会社や物流会社から選ばれる会社になりたい”との想いで活動を進めているという。

現状、ドライバーのみならず物流に関わる労働人口は不足の度合いが増して行っている。そうした状況にあって、同社ではドライバーが朝に出勤して夜には家に帰れる仕組みが整えられているとし、ドライバーにも喜ばれているとする。髙木氏は、「選んでもらえるという環境を提供していかなければ、我々も製品を今後安定的に供給し続けられないと思っています」と、物流改革に対する想いを熱く語ってくれた。

こうしたドライバー目線で進める取り組みは徐々に効果が出ているとのことで、今後の同社の取り組みによる物流の働き方改革の進展に期待が高まる。