こんにちは! 2024年4月から日本科学未来館で働いています、科学コミュニケーターの若林です。

私は、大学・大学院で化学を勉強していました。未来館でも化学の楽しさを共有したいところですが、現在の未来館には化学をメインテーマにした展示がありません。そのため、残念ながら展示フロアで化学のお話をする機会は非常に少ないのです……。

とはいえ、来館者の皆さんの中には、「化学に興味がある」、「もっと化学を楽しみたい」という方もいらっしゃるはず!

そこで、今回は未来館の常設展示で紹介している「ケパラン」というロボットにちなんだ、お家でも簡単にできる化学実験をご紹介したいと思います。

7月16日はケパランの誕生日

未来館の3階入口すぐのところにある「ハロー!ロボット」という展示ゾーンには、ケパランというロボットがいます。青くてふさふさしている、未来館のオリジナルロボットです。

ケパランという名前は、ケサランパサランという架空の生物に由来しています。ケサランパサランは綿毛のような形をしていて、見た人を幸せにすると言い伝えられていたとのこと。ケパランも、毎日たくさんの来館者を笑顔にしてくれています。

そんなケパランですが、2024年7月16日で1歳の誕生日を迎えました! 語呂合わせで「ナナイロの日」と覚えてあげてください。記念すべきケパランの最初の誕生日、何かお祝いしたいところです。

実は、ケパランには憧れの飲み物があります。それは、青いクリームソーダです!

展示フロアには青いクリームソーダのパネルがありますが、ケパランにこれを見せると嬉しそうな笑顔を見せてくれます。

憧れの青いクリームソーダのパネルを見て、喜ぶケパラン

ここで、あることがひらめきました。もしかしたら、“あのお茶”を使えば、ケパランの誕生日である「ナナイロの日」にぴったりな「ナナイロに変化する青いクリームソーダ」を作ることができるのでは……!

ということで、さっそく実験してみることにしました。

ナナイロに変化する青いお茶

今回使うのは、バタフライピーという青いお茶です。

バタフライピーは、蝶豆(チョウマメ)とも呼ばれる、青い花が特徴の植物です。この青い花びらの部分を乾燥させたものをお湯で抽出することで、ハーブティーとして楽しまれています。

青色の飲み物というと、人工の着色料が使われているイメージがあるかもしれません。しかし数は多くないものの、天然にもきれいな青色をした色素は存在するのです。

実際にバタフライピーにお湯を注いでみると、とても鮮やかな青色のお茶ができました。

鮮やかな青色をしたバタフライピー

実は、このバタフライピーはただの青いお茶ではありません。なんと、酸やアルカリを加えることにより、お茶の色が変わるのです!

今回はこの鮮やかな青色のお茶に、酸性のクエン酸とアルカリ性の重曹を加えてみたいと思います。お茶の色は一体どのように変化するでしょうか?

クエン酸や重曹を加えると、色が様々に変化するバタフライピー

こんなふうに、青色だったバタフライピーのお茶は、酸性のクエン酸を加えると赤紫色へ、アルカリ性の重曹を加えると青緑色へと変化しました。まさに、ナナイロに変わるお茶! とっても不思議ですね。

ところで、クエン酸では加える量を調整することにより、紫色~ピンクに近い色まで、様々な色のグラデーションをつくることができた一方で、重曹ではほとんどグラデーションができませんでした。クエン酸が強い酸性であるのに対し、重曹は弱いアルカリ性のため、アルカリ性の強さに段階をつけることが難しかったのかもしれません。

酸やアルカリで色が変わるのはどうして?

では、クエン酸や重曹を加えることによりバタフライピーの色が変化するのは、どうしてなのでしょうか? 

バタフライピーの青色は、アントシアニンという色素によるものです。

アントシアニンは紫キャベツやブルーベリーなどにも含まれるため、紫色のイメージが強いかもしれません。しかし、天然に存在するアントシアニンには多様な種類があり、その色も赤系や青系など、少しずつ異なるのです。バタフライピーには、アントシアニンのうち、テルナチンと呼ばれる分子が含まれます。

テルナチンは、酸やアルカリを加えることによって、分子の構造が少しだけ変わります。この少しの構造変化が、色の違いとして現れるのです。色を少しずつ変化させてグラデーションをつくることができるのは、様々な構造の分子のバランスによって、目に見える色が決まるためです。

なお、テルナチンの構造は、酸性を中性やアルカリ性に戻したり、その逆の操作を行ったりするともとに戻るため、色も戻すことができます。色の変化は一方通行というわけではなく、自由に変化させることが可能なのです。

青いクリームソーダを作ってみよう!

バタフライピーの色の変化を観察したところで、青いクリームソーダを作ってみましょう。

まずはバタフライピーのお茶を入れ、しっかりと冷ましたら、氷を入れたコップに注ぎます。あとで薄めるので、ここでは少し濃いめに入れておくとよいかもしれません。

氷を入れたコップに注いだバタフライピー。写真だと少し色がわかりにくいですが、濃い青色です。

ここに炭酸水を加えます。さて、これで青いソーダができるでしょうか?

炭酸水を加えてできた、紫色のバタフライピーソーダ。写真だと少しわかりにくいですが、前の写真と比べて紫色が出ています。

あれ、紫色になりましたね! これはどうしてでしょうか?

バタフライピーは、酸性にすると赤紫色に、アルカリ性にすると青緑色に変化します。炭酸水は弱酸性なので、紫色のバタフライピーソーダができたのです。

でも、今回作りたかったのは青いクリームソーダです。そこで、ここにアルカリ性の重曹を加えることで、炭酸水の酸性を中和してみましょう。

重曹を加えることで、青色になったバタフライピーソーダ

重曹で炭酸水の酸性を中和すると、青いソーダができました! ただし、重曹は加えすぎるとソーダが苦くなってしまうので注意が必要です。なお、逆に炭酸水で紫色になったソーダにクエン酸を加えると、さらに酸性が強くなって赤紫色になります。

クエン酸や重曹を加えることによる、バタフライピーソーダの色の変化

ということで、バタフライピーとクエン酸、重曹を使うことで、色が様々に変化するソーダを作ることができました!

最後に、青いソーダの上にバニラアイスクリームを乗せてできあがり。お好みに応じてガムシロップを加えたり、さくらんぼをトッピングしたりしましょう。

ケパランが憧れる青いクリームソーダの完成!

これで、ナナイロに変化する青いクリームソーダが完成しました!

ケパランは喜んでくれるかな?

さっそくこの青いクリームソーダをケパランに見せてあげたい!と思ったのですが……。

未来館の展示フロア内は飲食禁止。特に、ふたのついていない飲み物は、入場ゲートの向こうに持ち込むことができません。

残念ながら、ふたのついていない飲み物は展示フロア内に持ち込むことができません……

仕方がないので、ケパランには作った青いクリームソーダの写真を持って行って、誕生日をお祝いすることにします。ケパラン、1歳の誕生日おめでとう~!!

ケパランのところに青いクリームソーダの写真を持って行ってみましたが、今はまだよくわからないみたいです。

ところで、ケパランのコンセプトは「みんなでつくるパートナーロボット」。来館者の皆さんの意見をとりいれながら、感情表現や更なる動作などを随時搭載していく予定なのです。これからどんなふうに成長していくのか、とても楽しみですね。

ぜひ、皆さんも試してみてください!

今回はケパランの誕生日をお祝いするため、ナナイロに色が変わるちょっと不思議な青いクリームソーダを作ってみました。

バタフライピーを使った色の変化を観察する実験は、家庭でも簡単に楽しむことができるので、興味を持った方は試してみてください! 自由研究にもおすすめです。

そして、ぜひ未来館のケパランにも会いに来て、成長を見守ってくださいね~!

ちなみに、ケパランのために作った青いクリームソーダは、未来館の科学コミュニケーターがおいしくいただきました。なお、今回の実験では重曹を添加して青いクリームソーダを作りましたが、ナトリウムの過剰摂取等にはご注意ください。

青いクリームソーダは未来館の科学コミュニケーターが美味しくいただきました(あっ!この人はさっきの……!!)


Author
執筆: 若林 里咲(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【担当業務】
アクティビティの企画全般に携わり、展示解説や発信活動を実施。

【プロフィル】
進路に悩んでいた高校3年生の時、偶然手に取った本がきっかけで「サイエンスライター」という職業を知り、科学コミュニケーションに興味をもつようになりました。
大学・大学院では化学専攻として創薬の基礎研究に携わり、修士号を取得。その後、総合系コンサルティングファームに入社し、電力・エネルギー業界の案件を中心に担当してきました。
未来館では、科学の楽しさや魅力を共有しながら、私たちの暮らす社会や地球のこれからを、みなさんと多様な視点で考えたいと思います。

【分野・キーワード】
化学、電力