キャッシュレス決済の波が加速している。鉄道やバスといった公共交通機関でも、大半の人がICカード決済などを利用しているように見受けられる。また、2024年7月に新紙幣が発行されたことで、現金決済のシステムでは新紙幣に対応するためのコストが大きな負担になっているという話題もしばしば耳にする。
こうした変化に対応すべく、ジェイアール東海バスは2023年1月からQRコード決済を導入しているほか、2024年7月には現金を取り扱う車内運賃箱を一部の路線を除き原則廃止することとした。いかにキャッシュレス化が進んでいるとはいえ、現金に対応する運賃箱の廃止は大きな決断だったのではないだろうか。同社が進めるキャッシュレス化推進の取り組みと意図について、ジェイアール東海バス 企画営業部 営業管理課 課長代理の北堀隆宏氏に話を伺った。
ICカードやクレジットカード決済も候補に挙がるも……
愛知県を中⼼に⾼速バス事業を展開するジェイアール東海バス。同社の場合、多くの乗客は事前にWebサイトで乗車券を購入するが、一部区間においては予約せず、バス乗車時に直接乗車券を購入する乗客もいると北堀氏は説明する。その際は車内運賃箱を利用することになっていたが、キャッシュレス化が進む中、同社では2021年頃から車内での乗車券販売での現金の取り扱いを減らす、あるいはやめることができないか検討を開始した。
代替案としてまず候補に挙がったのは、すでに広く普及していたICカードによる決済だ。しかし、高速バスの運賃は支払金額が大きく、「あまりそぐわないのではないか」という意見が出た。また、機器の設置や維持費の負担が大きいこともネックになった。
クレジットカード決済という選択肢もあったが、これも専用の読み取り機の設置が必要なシステムが多いことや、検討した2021年当時はタッチ決済に対応していないクレジットカードも広く使われていることなどがネックとなった。また、運行時間の正確性が求められる高速バスならではの要因として、クレジットカード決済端末の通信にタイムラグがあることも懸念したという。
「車内で乗車券を決済するときに、長いと10秒ほどのタイムラグがありました。それではお客さまをお待たせしてしまう上に、発車時刻にも影響を与えてしまいます」(北堀氏)
初期費用の負担が少ないQRコード決済システムを導入
議論を繰り返した結果、ジェイアール東海バスが選んだのがQRコード決済だ。前述のようなタイムラグがなく、専用の機器も不要で、すでに乗務員に配布していた業務用スマートフォンのカメラで読み取りが可能であること、結果的に初期費用の負担が少ないという点が決め手になったという。こうして、2023年1月、リクルートが提供するQRコード決済サービス「Airペイ QR」が正式導入された。
Airペイ QR導入の際には、車内での売上管理をどのようにするのかという議論もあり、あわせてPOSレジアプリ「Airレジ」も導入。乗務員の負担を減らす仕組みを整えた。
「現金と違い、QR決済はデータ上での管理になります。その分、リスクも工数も減りました」(北堀氏)
数百万のコストをかけるよりも、廃止をする決断
ジェイアール東海バスはさらに、2024年7月、各バスに設置されている車内運賃箱を、一部の路線を除き廃止することに踏み切った。その背景にあるのは、同月に流通を開始した新紙幣の存在だ。北堀氏によると、運賃箱の利用率は年々減少しているものの、箱自体は比較的高価であり、今後の保守や新紙幣対応のための買い替えを考えると、「ここにコストをかけたくない」と感じたそうだ。
「運賃箱を新紙幣に対応させるためのコストは1台10数万円です。弊社で所有する約80台のバス全てを新紙幣に対応した場合のコストはそれなりの額になります」(北堀氏)
さらに、より多くの乗客がWebサイトでの事前予約を利用できるよう、発車直前まで購入できる仕組みを導入するといった環境整備も行った。
このようにして決定した車内運賃箱の廃止について、社内外の反応はどうか。乗客からは今のところ不満の声などは上がっていないそうだ。もちろん現金での支払いを希望する乗客がいれば、乗務員が直接対応するため、乗客への影響はない。一方社内については、「新しいことをやると多少の反発はあるが、定着すればうまくいくようになると考えている」と同氏は話す。
数年後の在り方を見据え、キャッシュレス化を推進
同社は今後、車内での決済手段を増やし、さらにキャッシュレス化を推進していくという。その1つが決済サービス「Airペイ タッチ」を利用したクレジットカード決済である。スマートフォンで直接クレジットカード決済が可能になったことで、現在社内で検討が進んでいる。また、国土交通省がこの秋、完全キャッシュレスバスの実証運行を行うことも発表されており、「早ければ来年、再来年には完全キャッシュレス化したバスが登場する可能性もある」と北堀氏は言う。
「弊社ではバスを安全に運行することを最優先に、5年後、10年後の在り方を想定しながら、今よりも効率化し、収益を上げる取り組みを進めています。この方針に沿い、周りの環境を見ながら、さらなるキャッシュレス化を進めていきたいと考えています」(北堀氏)