大阪産業大学(大産大)、東海大学、核融合研究所(核融合研)の3者は7月11日、ナノ秒紫外レーザーによりシリコン太陽電池表面に20nm程度の先端を有するナノドット構造形成に成功したと共同で発表した。
同成果は、大産大の草場光博教授、同・平井健太氏(研究当時)、同・田中朋世氏(研究当時)、同・堤大輔氏(研究当時)、東海大/京都大学の橋田昌樹教授、核融合研の坂上仁志名誉教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英国物理学会出版局の刊行する応用物理学に関する全般を扱う学術誌「Journal of Physics D: Applied Physics」に掲載された。
現在の技術では、物質の表面にナノスケールの微細構造を形成することは可能になっている。そのナノ微細構造の工夫次第で、撥水性や抗菌性、無反射性など、材料にさまざまな機能性を付与させることが可能だ。
現在の太陽電池で一般的に利用されているシリコン太陽電池では、シリコン表面に1~10μmの大きさを持つピラミッド構造を形成することで、太陽光エネルギーから電気エネルギーへの変換効率についておよそ20%が達成されている。しかし、再生可能エネルギーとして太陽光をさらに有効活用にするには、その変換効率をさらに向上させる必要がある。そのためには、太陽光スペクトルの最大強度となる500nm付近での太陽光をさらに太陽電池に吸収させるために、数百nm以下の大きさのナノ微細構造をピラミッド構造表面に形成する技術が求められており、それを実現できる技術として「モスアイ構造」や「ポーラス構造」、「レーザー誘起周期構造」(LIPSS)などが有望であると期待されている。
その3種類の中で、特にシリコン太陽電池表面上でのLIPSSは、他の方法と比較して時間の節約や結晶性の保持ができるという利点がある。そんな中で研究チームはこれまでの研究で、融解閾値フルエンス(フルエンスとは、1パルス・単位面積あたりのレーザーのエネルギーのこと)が0.5J/cm2以下のXeClエキシマレーザーパルスを用いて、シリコン太陽電池のピラミッド構造表面にLIPSSを形成させることに成功している。そして、反射率の減少はLIPSSの間隔と強く関係すること、LIPSSが形成された後も同太陽電池の結晶性が保持されていることも報告済みだった。
反射率をさらに低減させるためには、屈折率が上部から下部まで連続的に変化する三角形のナノドット構造(微小突起構造)を作製する必要がある。これまで、ナノドット構造の形成に関する研究はいくつかあるが、シリコン太陽電池の反射率低減に最適なナノドット構造の形状、大きさおよび密度ではなかったとのこと。そこで今回の研究では、発振波長248nm、パルス幅20nsのクリプトン・フッ素(KrF)エキシマレーザーを用いて、同太陽電池表面上に高密度に三角形ナノドット構造の形成を試みたとする。
そして、シリコン太陽電池の融解閾値0.47J/cm2以下のレーザーフルエンスで、KrFエキシマレーザーを照射したところ、ナノドット構造は、レーザーがシリコン太陽電池のピラミッド構造表面に対し、S偏光として照射される面(S偏光面)のみに形成されることが発見された。そして形成されたナノドット構造の大きさは先端が約20nmである三角形のナノドット構造であり、この構造のサイズはレーザーの「回折限界」よりも小さいことが発見された(レーザー光を集光した場合、理想的な光学系であっても回折によりレーザー波長以下の径にはならない)。
また、ナノドット構造の密度はレーザー波長に関係しており、レーザー波長の2乗に反比例し、短波長レーザー照射が高密度化に有効であることが見出された。加えて、ピラミッド構造のS偏光面のみにナノドット構造が形成されたシリコン太陽電池の、500nmでの反射率約5%が達成されたとする。顕微ラマン分光を用いて同太陽電池の結晶性を評価したところ、ナノドット構造を形成させることによって、表面に圧縮応力が発生していることも確認された。さらにバンドギャップを評価したところ、シリコン太陽電池のバンドギャップエネルギーがより高くなることも判明。ナノドット構造は、融解閾値の半分程度の弱いレーザーフルエンスで照射しても形成されることから、高効率かつ大面積加工技術への発展が期待がされるという。
以上の成果は、レーザー誘起ナノドット構造形成によって、シリコン太陽電池の反射率低減およびより高いバンドギャップエネルギーが、同太陽電池の分光感度が短波長側にシフトすることにつながることから、同太陽電池の高効率化が期待されるとする。また、今まで融解閾値以下のレーザーフルエンスでの照射については未開拓な領域であり、この成果はナノ微細構造の形成メカニズムの解明に大きく進展させる足掛かりになるものとしている。