近年は先端半導体分野で米中の対立が激化しているが、今後は電気自動車(EV)を巡っても火花が散りそうな予感だ。

バイデン政権は5月、中国製EVに対する関税を現行の25%から4倍の100%に引き上げる方針を明らかにした。今回の決定は、米国に対して不当な貿易政策を続ける国家への制裁を容認する米通商法301条に基づくものだが、EVの自国産化と国内での普及を目指すバイデン政権は、中国政府が国家の補助金を利用して安価なEVを大量生産し、それによって世界のEV覇権を握ろうとしていると強い警戒感を抱いている。では、今後のEVを巡る米中の覇権競争はどうなっていくのだろうか?

先に答えとなるが、今後の米中EV覇権は“米国が先制的な攻撃を仕掛け、中国がそれに対抗する、もしくは冷静さを内外にアピールする”という形で展開されていくだろう。

まず、米国にとって中国との先端半導体やEVを巡る攻防は単なる貿易摩擦ではない。外形上は輸出入規制や関税引き上げなど、貿易面での規制の応酬であることは間違いないが、米国にとって、今日の中国は“米主導の政治経済秩序に挑戦する脅威”であり、中国の台頭を是が非でも食い止めようという強い意思があり、貿易摩擦という名を借りた政治紛争なのである。

バイデン政権が中国製EVに関税100%を発表したが、今回の対象は車載用電池、鉄鋼、アルミニウム、太陽光発電に使用される太陽電池、家電製品や自動車など幅広く使用されるレガシープロセスを採用した半導体、注射器や手術用ゴム手袋など多岐に渡っており、今回の関税引き上げ対象となる製品の総額は日本円で2兆8000億円相当になる。バイデン政権が中国製EVに警戒感を持っていることは事実だが、それは懸念事項の1つでしかなく、可能な限りあらゆる中国製品に経済攻撃を加えることで中国の大国化を最小化したい狙いがある。こういった意思があることから、米国の対中政策は先制的なものになる傾向が強い。

一方、中国はそうような米国に対して、中国は対抗措置を発動するほか、自らの冷静さを内外にアピールするだろう。中国の全国人民代表大会の常務委員会は4月下旬、関税法を可決し、12月1日からそれが施行される。関税法は中国の貿易相手国が条約や貿易協定に違反して関税引き上げなどの措置を取った場合、中国が報復関税などの対抗措置を取ることを定めており、今後EV関連で米国が先制的な貿易規制を仕掛けてきた場合、この関税法によって対抗措置を講じてくる可能性がある。

また、中国は“先制的な攻撃を続ける米国は理性を失い、グローバル経済に背く方向を自ら歩んでいるが、中国は冷静に対応している”などとグローバスサウスに強く訴え、欧米とは一線を置く経済秩序の拡大を目指した外交を強化していくだろう。EVとの関連で言えば、米国が対中EV規制を先制的に強化しても、それに対して同等の対抗措置は控え(米国を無視する)、中国製EVのグローバルサウスへの輸出を拡大するというシナリオが考えられよう。