千葉工業大学(千葉工大)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立天文台(NAOJ)の3者は6月26日、現在、海王星の外側に広がる「エッジワース・カイパーベルト(カイパーベルト)天体」を探査中のNASAの探査機「ニュー・ホライズンズ」の探査天体候補を探すため、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam」(HSC)で撮影されたカイパーベルト天体の探査画像に独自の解析手法を適用した結果、カイパーベルト領域を広げる可能性のある天体を発見したと発表した。
同成果は、千葉工大 惑星探査研究センター 非常勤研究員の吉田二美博士(産業医科大学 医学部 准教授兼任)、NAOJ 天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士講師らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
海王星(太陽からの距離は約30天文単位)からさらに外側の50天文単位ぐらいまでは、小惑星などの小天体がリング状に分布した第2の小惑星帯ともいうべきカイパーベルトがある。この海王星軌道から、カイパーベルトを含め、「オールトの雲」(巨大惑星が弾き飛ばした微惑星が太陽を中心として球殻状に分布していると推測されている)の最外縁部のおよそ10万天文単位(=約1.6光年)ぐらいまでは、「太陽系外縁部」と呼ばれている。
現在の観測からはカイパーベルトの外端は50天文単位ほどで突然途切れているように見え、もし本当に太陽系がそこまでだとすると、これまでに観測されている多くの原始惑星系円盤の半径が100天文単位ほどあることから、太陽系はとてもコンパクトな状態で生まれたことになる。しかし観測できていないだけで、原始太陽系円盤は、ほかの原始惑星系円盤同様にもっと外側まで続いていた可能性もあるという。
またカイパーベルトの外端は、その外側の天体(惑星)の影響を受け、進化の過程で切り取られてしまった可能性もあるという。もしそれが本当なら、カイパーベルトのさらに遠方を観測すれば円盤を切り取った天体や、第2のカイパーベルトが見つかる可能性もある。このように太陽系外縁部にある天体を見つけ、その分布を調べることは、太陽系の進化を知る上で重要だ。
ニュー・ホライズンズは2015年に冥王星系をフライバイ観測して大きな成果を挙げた後、現在はカイパーベルト天体の観測を実施中。2019年には「アロコス」をフライバイ観測し、史上初となる太陽系外縁天体の表層の撮影を行った。その後もミッションは延長され、ニュー・ホライズンズが今後調査可能なカイパーベルト天体の候補を探すため、すばる望遠鏡も協力することにしたという。
すばる望遠鏡のHSCを用いたカイパーベルト天体探しは、ニュー・ホライズンズが飛行する方向の2視野分(満月のおよそ18個分の広さに相当する領域)に絞って行われている。これまでに行われた約30半夜の観測で、ニュー・ホライズンズのサイエンスチームは、240個以上の太陽系外縁天体を発見したとする。
そして今回の研究では、上述の観測により取得された画像を、吉田博士らを中心とする研究チームが、サイエンスチームとは異なる手法で解析し、新たに7個の太陽系外縁天体を発見したとした。決まった視野を一定期間撮り続けたHSCの観測データに対し、普段は近地球小惑星やスペースデブリの検出に使われている、JAXAが開発した「移動天体検出システム」を適用できることがわかったという。
同システムは、32枚の連続した画像をいくつもの方向にずらして重ね合わせることにより、特定の速度で移動する天体を検出するというもので、高速処理のために独自の工夫がなされているとする。新発見の7天体のうちの2天体については大まかな軌道が求められ、すでに国際天文学連合の小惑星センターから仮符号が付与されているとした。
上述したように、従来の研究ではカイパーベルト天体の数が50天文単位辺りから急減するため、カイパーベルトの外縁がその辺りにあると想像されていた。しかし、今回の仮符号を与えられた2天体の軌道長半径は、どちらも50天文単位以上だという(ただしこれらの天体の軌道要素は、将来的に観測が蓄積するにつれて多少変動する可能性がある)。今後も似たような軌道を持つ天体の発見が続けば、カイパーベルトはさらに先まで続いていることがわかるかもしれないとした。
すばる望遠鏡とニュー・ホライズンズの連携により、まだ人類が観測できていない太陽系深縁部の探査が進むことが期待されるとしている。