日本マイクロソフトは6月24日、同社の生成AIサービスを導入する企業に関する説明会を開催した。小売最大手のイオンと「東進ハイスクール」を運営するナガセの2社が登壇し、それぞれの活用事例が紹介された。

両社は、マイクロソフトの生成AIサービス「Azure OpenAI Service」を利用して、独自のアプリケーションを開発している。それぞれの取り組みを紹介しよう。

  • イオンと東進ハイスクールはマイクロソフトの生成AIサービス「Azure OpenAI Service」を活用して独自のアプリケーションを構築している

    イオンと東進ハイスクールはマイクロソフトの生成AIサービス「Azure OpenAI Service」を活用して独自のアプリケーションを構築している

イオン、商品説明をAIで生成「人間よりも成果が出た」

イオンは、Azure OpenAI Serviceを用いて商品説明を自動生成するAIを100%内製で開発し、Eコマース領域の事業部門で活用している。商品情報に加え、セールスコピーやタグ、商品の詳細な説明文などを人間に代わってAIが生成している。

  • 100%内製で構築した商品説明を自動生成するAI

    100%内製で構築した商品説明を自動生成するAI

Eコマース担当の従業員が対象商品に関する情報を入力し、「セールスコピー」や「説明文」、「全て」といった項目を選択し実行ボタンを押すだけで、AIが瞬時に生成してくれる。また、「保守的」から「革新的」まで表現のレベルを調整することが可能で、「関西弁で生成してください」といったように生成する内容を柔軟に変えられる。

「Eコマースを強化するために、商品説明を充実させることは必要不可欠。一方で説明文を作成するためのリソースは限られており、すべてのコンテンツを手動で作成することは現実的ではない。そこで、イオングループ全体で持つ多様なデータを活用したAIを構築し、従業員の作業効率を高めようと考えた。また、AIを活用することで品質にばらつきのない説明文を作成することも可能だ」と、イオン チーフデータオフィサー (CDO)兼データイノベーションセンター長の中山雄大氏は説明した。

  • イオン チーフデータオフィサー(CDO)兼データイノベーションセンター長 中山雄大氏

    イオン チーフデータオフィサー(CDO)兼データイノベーションセンター長 中山雄大氏

このAIを導入した後、セールスコピーを検討する時間工数は6割削減されたという。以前は改廃の登録期限を1~2日過ぎることがあったが、導入後は期日までに作業が完了されているとのこと。

またコスト削減だけでなく、AIの活用はコンテンツの品質改善にもつながっている。同社が行ったPoC(概念実証)によると、AIが生成した説明文のPV(ページビュー)数は、手動で作成していた従来の説明文のPV数を大きく上回り「約2倍になった」(中山氏)という。AIがコンテンツの品質を改善し、顧客体験を向上させた。

  • AIが生成した説明文のPV(ページビュー)数は、手動で作成していた従来の説明文のPV数を大きく上回った

    AIが生成した説明文のPV(ページビュー)数は、手動で作成していた従来の説明文のPV数を大きく上回った

中山氏は「(事実と異なる内容を生成する)ハルシネーションといった課題もあるため、AIが作った説明文は必ず目視でチェックするようにしている。それでも一から文章を考える従来の手法と比べると、作業効率はぐんと向上した」と述べた。

東進ハイスクール、AIが英作文を添削

全国に3000の拠点、約37万人の生徒を抱えるナガセは、生成AIを用いて「英作文添削サービス」を開発し、提供している。Azure OpenAI Serviceで提供されるLLM(大規模言語モデル)と、東進が保有する添削基準や問題、大学入試情報といったさまざまなデータや指導ノウハウを組み合わせて開発した。

  • 英作文添削サービス「英作文1000本ノック」

    英作文添削サービス「英作文1000本ノック」

「基礎」から「大学受験 最難関」まで5つのレベルがあり、日本語を英訳する問題が出題され、回答するとAIが自動で添削してくれる。答えだけでなく、答案に即した講評やアドバイスなども生成し、別解も教えてくれる。生徒は、いつでもどこでも何度でも好きなタイミングで利用できる。

  • 日本語を英訳する問題が出題され

    日本語を英訳する問題が出題され

  • 回答するとAIが自動で添削してくれる

    回答するとAIが自動で添削してくれる

ナガセ AI教育開発部長の山野高将氏は「英作文は受験やビジネスにおいて必須スキルだが、教育の現場では十分に指導がされていない。英作文の指導は難易度が高いうえに時間がかかり、先生個人に依存してしまう側面がある。限定的な学習機会に留まっているのが現状だ」と説明した。

  • ナガセ AI教育開発部長 山野高将氏

    ナガセ AI教育開発部長 山野高将氏

ナガセは2024年2月から3月までで同サービスの先行無償提供を実施し、4月22日より正式にサービス提供を開始した。6月21日現在、527人の生徒から申し込みがあり、累積演習回数は19万5000回を超えたという。実際に利用している生徒からは「AIが間違えをピンポイントで指摘してくれるので理解しやすい」、「別解を出してくれるので新たな学びがある」と好評だ。

  • 別解も出してくれる

    別解も出してくれる

同社はさらに、「よくある誤答」といったさまざまなデータを蓄積し分析することで、AIを継続的に改良改善していく考え。また英作文だけにとどまらず、さまざまな教科で生成AIを活用していく方針だ。

山野氏は「2025年度の大学入学共通テストから新たに加わる『情報Ⅰ』に対応するAIアプリもリリースする予定だ。生成AIは英語以上にプログラミングが得意。そもそもどう学習していいか分からない生徒も多く、エラーが難解で挫折しがちなプログラミングには、繰り返し書いて学ぶ生成AIによる自動添削は非常に相性がいい」と説明し、「東進のデータと生成AIを組み合わせて利用し、生徒一人ひとりに最適化された教育を実現してく」と今後の展望を述べていた。