東北大学は6月13日、冗長性の利点を最大限活用するためのモデルフリーの「逆静力学コントローラ」を提案し、筋骨格脚ロボットシミュレーションを用いた実験で、同手法がロボットの重量変化や筋肉の故障、地面との接触などに対して再学習などの介入を一切せず自律的に適応し、妥当な制御精度を維持することに成功したと発表した。
同成果は、東北大大学院 工学研究科の杉山拓大学院生、同・林部充宏教授、英・ケンブリッジ大学のElijah Almanzor大学院生、同・Arsen Abdulali博士、同・Fumiya Iida教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Bioinspiration & Biomimetics」に掲載された。
現在の技術では、ロボットに二足歩行をさせることはできるが、ものが散らかった畳敷きの部屋の中を、ものを踏まずに滑らかに移動するといったことは容易ではない。もちろん、Boston Dynamics社の二足歩行ロボットのように、まるでパラクールのように障害物の上を走り抜けて、宙返りまで決めてしまうすさまじい運動性能を見せるロボットもいるが、1回で撮影が成功しているわけではなく、動画の撮影の際には何度も何度も転倒し、完成させるのは容易ではなかったという。
同じ二足歩行でも、ロボットがヒトのように安定感のある歩行ができないのは、動物とは手足を動かす仕組みが異なるからだ。動物の場合は関節がフリーになっており(構造上曲がらない角度はある)、冗長性があり素速く反応できる筋肉を活用して手足や指などを動かしているため、不確実で複雑な実環境の中で適応的な動きが実現されている(周囲の環境を把握する能力の高さもある)。
その一方で、現在の二足歩行ロボットの多くは、関節部にモーターが配されており、動物とはまったく仕組みが異なる。そのため、ヒトのように歩く、走るという動作も、障害物のない真っ平らな床面などでないと難しく、予定外の小石を踏むなどしてイレギュラーが発生すると、対応できずにバランスを崩して転倒してしまうことになる(冗長性に強い油圧方式を採用したものもある)。
硬い骨格と柔らかい筋肉(アクチュエータ)で構成される筋骨格ロボットは、上述した生物の冗長性のある構造に着想を得たロボット。筋骨格ロボットは、関節の硬さ(剛性)の調節、筋肉の故障や変質に対する強靭性といった利点を持つ。しかし、そのようなシステムは構造が複雑であるため、明示的なモデル化とそれに基づいた制御が困難だという。既存のモデルフリー手法はあるが、筋肉の冗長性の利点を十分に活用できていないという課題を抱えていたとする。たとえば、筋肉が故障した際は再学習が必要となり、関節の硬さを制御するためにはパラメータを手動で調整する必要があった。そのため、特に筋骨格ロボットの冗長性の実環境での活用が制限されていたのである。
そこで研究チームは今回、ニューラルネットワークに対してロボットの逆静力学モデル、つまり目標の姿勢に対する筋肉活性化量(アクチュエータ入力)を学習させるという手法を採用することにしたという。
今回の研究で学習には、モーターバブリングデータ(ランダムに筋肉を活性化させてランダムにロボットを動かした時のデータ)が利用された。学習後、ニューラルネットワークはロボットの目標姿勢と、現在の制御周期での姿勢および筋肉活性化量を受け取る。そして、目標姿勢を実現するために、次の制御周期における筋肉活性化量が算出されるという仕組みだ。
次に、筋骨格を採用した脚部だけのロボットのシミュレーションを用いた実験が行われた結果、今回開発された手法は、目標姿勢に到達するための適切な筋肉活性化量を算出し、高精度のリーチングと軌道追従に成功したという。ロボットの重量変更や地面と接触させたスクワットを実行した際には、関節の硬さを自律的に調節し、制御精度を維持することができたとする。さらに、筋肉が故障した場合でも、故障していない筋肉の出力を増加させることで、妥当な制御精度が維持されたとした。なお先行研究とは異なり、これらの評価の際には再学習などの介入は一切不要だったという。
今回の成果は筋骨格ロボットの冗長性を実環境で活用することを促進し、不確実な環境における筋骨格ロボットの応用への貢献が期待できるとした。今後の方針としては、実ロボットへの応用や、複雑な動きへの拡張が重要になると考えられるとしている。